第3話 ひでり神
令和の時代よりももっと多くの星が輝く平安の空を、晴明を乗せて黒狐紫檀が飛ぶ。
「晴明は、半妖であるのにどうしてそう強いのか」
紫檀が問えば、
「半妖だからだよ」
と晴明が答える。
「妖力を使わない人間の技も、妖力を使う妖狐の技も使う。術も星読みも出来て、管狐も使えば、強くもなる」
晴明がそう言えば、ふうん、と紫檀が答える。
「紫檀よ。強くなりたいのならば、ちゃんと勉強しろ。妖力にばかり頼るな。そんなんだからいつまでも尾の数が……」
「ああ、うるさい。乗っているくせに説教するな。くそジジイ」
紫檀には、耳が痛い話だ。
同じ年に産まれた妖狐は、皆、八尾、七尾と尾の数が決まり大人の妖狐になっているのに、紫檀には、まるでその気配がない。妖力を貯めても貯めても、まだ器が埋まらない。修行なら人並みにやっていると思うのだが、なかなか尾が成らない。
尾が定まって妖狐が大人になることを、尾成り呼ぶ。尾成りとならなければ、一人前の妖狐として扱ってもらえない。
「まあ、いい。説教した責任を取って、晴明が尾成りまで責任をとれ」
そう、カラカラと紫檀が笑えば、そうきたか、と晴明がため息をついた。
晴明が指示したのは、都から戌亥の方角にある山の中。明かりもない暗闇の中。
辺りには、異様な気配が立ち込めている。
そこを涼しい顔をして歩く晴明の横を、人の姿に転じた紫檀が軽快に飛びながら突いていく。
「紫檀よ。
「ああ。美女に騙されて、日照りの術を解かれてしまった男だろう?」
「その上人の行く末は?」
「……さあ、確か、伝承では雷神となって女を追いかけたとか……。だが、人間が怒りだけで神になれるのか?」
「時の朝廷を呪った菅原の道真。天神となったらしい」
「ふうん。ならば、その鳴神上人も、雷神となったなら、呪いの神か?」
つまりは、妖魔に近い存在か。
おそらくは、鳴神上人は、怒りで身を焦がして死んでしまったのだろう。そして、術力の高い鳴神上人は、ただの妖魔ではない、呪力を持った妖のような物になったのであろう。
天神となるほどの呪力があったかは分からないが、竜神を閉じ込めたのだから、きっとそれなりの呪力を持っていたのだろう。
「それを、
晴明の足が、滝つぼでぴたりと止まる。
そこには、古ぼけたしめ縄が千切れそうになりながら垂れ下がっていた。
中にいるのは、かつて生前に
「紹介しよう。
晴明の言葉に、腕一本、足一本の男が、ジロリとこちらをにらんだ。
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