第3話、その頃の神国

 ……その頃、神国しんこくにて。

「くっ、何故なぜこのタイミングで……」

「このままでは、神国が‼」

 炎につつまれる街。現在その街は異形いぎょうが闊歩する末世だ。

 現在、神国は魔王の軍勢ぐんぜいにより攻撃を受けていた。ただ、気になるのは敵に攻め落とす気配けはいが一切ない事だ。

 数万を超える大軍たいぐん。だが、その統率とうそつされた軍勢に襲撃されているにも関わらず被害は意外な程に少ない。破壊活動はしても、殺戮さつりくはしない。明らかに不自然だった。

 まるで、邪魔じゃまする事そのものが目的であるかのように……

「いや、まさか……」

「えっと、どうしました?」

 神国の王はこの状況に一つの推測すいそくを立てた。だが、実の所外れて欲しい推測だったのだが。意地いじの悪い事に、その推測は当たっていた。

 隣に立つ妻に、神王しんおうは言った。

「まさか、目的は俺達があの子に接触せっしょくするのを邪魔じゃまする事か?」

「っ⁉」

 あの子。それはつまり、今回神王が召喚した不死者ふししゃの少年である。

 そして、それを察した女性も息をんだ。だが、そんな事をしているひまはない。こうしている間にも魔王まおうは手を打ってくるだろう。

 もし、この推測が正しければ召喚した少年の身があぶない。なら、こうして棒立ちしている場合ではないだろう。

「シラカワ!シラカワは居るかっ!」

「はっ、此処ここに……」

 神王を前に、一人の老齢な神官しんかんが現れた。その神官に、王は一つ命令をくだす。

「今からげる事を一言一句違えずに王国アストラルの王に告げるのだ!良いな、一言一句違える事はゆるさん!」

「はっ!」

 そうして、神王が王国への伝言でんごんを告げる。それを聞いた老齢の神官は頭を下げるとそのままっていった。彼ほどの腕ならきっと王国おうこくに辿り着く事が可能な筈。後は魔王からの攻撃をえ凌ぐのみ。

 そう考え、神王は表情を引き締めた。

「マイカ、そういう訳だ。お前は民衆たみと共に避難ひなんしてくれないか?」

「いいえ、アシハラ様。私はもうげたくないのです。せめて、貴方と共に居させてください」

 神王、アシハラの言葉にその妻マイカは真っ直ぐ見据みすえながら告げた。

 じっと、黙って見詰みつめ合うアシハラとマイカ。その表情はたがいに真剣だ。だが、やがてアシハラはそっと溜息をくとそっとマイカへと手を差し出して言った。

「なら、俺からはなれる事を許さない。決して俺のそばを離れるな」

「はい」

 その瞬間、アシハラとマイカへ向けて一体の翼竜型の魔物まものが襲い掛かる。しかし、その襲撃はアシハラのひとにらみによってあえなく撃墜された。ただの視線、それに籠められた神力によって魔物は命をり取られたのだ。

 そして、

「さて、どうか無事ぶじでいてくれよ?ミズホ……」

 不死者の少年、彼自身すら知らない本名ほんみょうを呼んで魔物の進軍しんぐんする中を駆け抜けた。

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