第2話、自己紹介

 盗賊を殲滅せんめつした後、僕はへらへらと二人の騎士に挨拶あいさつをした。こういう時は最初が肝心というし、やっぱり笑顔えがおで挨拶が一番だよね!

「こんにちは、少しきたい事があるんだけど良いかな?」

「っ⁉」

 二人の騎士は警戒けいかいと若干の恐怖の籠もった顔で身構みがまえた。まあ、それも当然かな。

 ナイフでされて死んだ筈の人間が平然とき上がり、こうして平然と話し掛けているのだから。ああ、それからこんなみすぼらしい以前にボロボロの衣服いふくとも呼べない格好をしているのもあるのかな?

 いやいや、そうでなくても大量の死体の中で血塗ちまみれの恰好でへらへら笑いながら話し掛けてくる人間を警戒するなと言う方が無理か。まあ、其処は少しずつ警戒心を解いてもらう他ないだろうけど。

 仕方しかたがないね!

「あ~、とりあえず僕はてきじゃないから。警戒をいてくれないかな?」

「■■■■■!■■■■■■■⁉」

 警戒を解く為、僕は敵じゃないとアピールするものの、どうも言葉が分からない。

 まあ、当然か。此処は異世界いせかい。文化がちがえば言語も違うのだから。いや、そもそもこの少女。さっきから何処どこか見た事があるような?気のせいか?

 幼い頃、彼女とは一度会っている気が……

 いやまさか、あのは違う。あの娘がまだ生きている筈がないんだから。

「まあ、ともかく今は言語の違いを何とかする方が先かな?」

 白髪の頭をがしがしとき、僕は溜息を吐いて顔をしかめた。

 実に面倒臭めんどうくさい。

 ……そして、一時間後。

「つまりだ、僕は敵じゃないよ?」

 何とかこの世界の言語を習得しゅうとくして騎士達の警戒を解く事に成功した。

 遥かながい時を生きている僕は全ての言語につうじている。例え、異世界の言語であろうともそれを習得する方法くらいはあるさ。

「貴方が敵じゃない事は理解りかいしました。でも、なら何故貴方はこんな森の中に一人で居たのですか?この森はさっきの状況から分かる通り、盗賊とうぞくがなわばりにしていたのですよ?」

 女騎士がさも、不思議そうにたずねてくる。

 まあ、それもそうか。確かにそう考えるのも無理むりはない。それにしても、やっぱり彼女はている。いや、似すぎている。

「ぐぬぬっ……」

「あの、どうして私の顔を見てうなっているのですか?」

「ああ、いや何でもないよ。それよりこの森に居た理由かな?それは僕も知らない」

「……はい?」

 女騎士がほうけたような声を上げる。男の騎士の方も、呆然とした顔をして僕をじっと見ている。

 うん、まあ分からなくもない。けど、そこまで驚かなくても良いじゃないか。

「だから、分からないんだよ。何故、僕が此処ここにいるのかが。分かるのは気付けば知らない森の中にほうり込まれていた事くらいで……」

 ともかく、僕は自分が不死身ふじみである事以外の事情を全て話した。

 この世界に来る前の事から今にいたるまでの、至極当たりさわりのない程度の全てを。

 話を聞きえた女騎士が、ぽつりとつぶやいた。

「異世界人、ですか……」

 異世界人。その単語を聞いた男の騎士がだまり込む。

 えっと?ああ、なるほどね……

「もしかして、この世界では異世界人がめずらしくないとか?」

「はい、そうですね。この世界には偶に異世界から人が来る事があります」

「大体の場合、召喚されたタイプと偶然流れ着いたタイプに分かれるんだがな。ほとんどは召喚された場合で、ごくまれに流れ着く場合がある」

 ……ふむ、その場合僕はどっちに当たるんだろうか?

 多分、順当に考えれば召喚なのだろう。実際、この世界に来る前に呪文じゅもんのような言葉が聞こえてきたし。しかし、どうなんだろうか?

 召喚されたにしては、召喚したぬしが居なかったのが気になる。召喚というからには召喚主が目の前にいても不思議ではない筈なのに……

 だが、話はそれで終わりではないようだ。

問題もんだいは此処からなんだけど……異世界人はそのおおくが自由奔放か、心の何処かに狂いをかかえている場合が多いの」

「……狂い?」

 その言葉に、思わず僕はドキリとする。実際、僕は自分自身が狂っていないなんて言えない身分だ。どころか、確実かくじつに狂っていると言えるだろう。

 僕自身、あんな強すぎる不死性ふしせいを持ってしまったが為に。死ねないが為に狂うしかなかったのだから。

「多くは強大な異能いのうを持て余し、狂ってしまう。それにえられるのは、強靭な心を持つ一部の強者か相当なわり者くらいだろう。かつて、召喚されたとある男はその強大な力で一瞬にして国を一つほろぼしたという」

「その男は、現在魔王を名乗り辺境のしまで暮らしているの。貴方も異世界人である以上は何かしらの異能を持っている筈。貴方の能力ちからは何?」

 真剣な目を向ける、二人の騎士。その目は僕が危険な男なら、自分の手で始末する必要があると語っている。

 恐らく、それは覚悟かくごと責任感故の目なのだろう。けど……

「やはり、僕は何処どこに行ってもそうなのか……」

「何を言っているの?」

「いや、別にそんな大した異能は持っていないよ?ただ、再生能力がすぐれているだけで其処まで強い力でもない」

 そう言うと、僕は近くにちていた盗賊のナイフを取った。警戒する騎士二人を他所に僕は、自身の手首をナイフでった。

「っ⁉」

「な、何を⁉」

 二人は突然の僕の行動に驚愕きょうがくした。けど、次の瞬間にはその傷はさっぱり消え去っている。その事実に、更に二人は愕然がくぜんとする。

 あえて、僕はこの時嘘を混ぜて説明した。僕の能力は、ただ再生能力が高いだけではない。強すぎる不死性、それが僕の能力の本質ほんしつだ。

 だが、それをあえて説明せつめいする気は僕にはない。必要性がないのではなく、それを言えば間違いなく化物ばけものを見る目で見られる。

 それは、いやだ……

「この通り、僕はなかなか死ねないだけで別に危険きけんな能力とか何も持っていない。だからそんな警戒をしないでしいな」

「……ごめんなさい。では、最後に貴方の名前なまえは?」

 名前、か。そう言えば僕自身名前に頓着とんちゃくした事が今まで無かったな。

 今まで僕は化物とかナナシとか呼ばれていたけど。ロクな名前を持ってない。

「名前、ね。いよ?」

「え?」

「それはどういう事だ?」

 僕のセリフに、女騎士は呆けたような声を上げ、男の騎士はいぶかしむ。

 そんな彼等に、僕はへらへらと何でもない風に言った。

「そのままの意味だよ。僕は物心が付いた頃にはすでに一人ぼっちだったからね。覚えている限り、人は僕の事を化物とんでいたし、君達も好きに呼んでくれて構わないんじゃないかな?」

「っ、そんな……⁉」

 さあ、好きに呼んでくれたまえ!そう言う僕に、女騎士は強いショックを受けたような表情をした。男の騎士も、絶句ぜっくしている。

 沈黙ちんもくが流れる事、約数分……

「……テラ」

「うん?」

貴方あなたの名前はこれからはテラです。バケモノでもナナシでもありません‼」

 女騎士が半ばさけぶように言った。テラと呼ばれた僕は正直のところ驚いていた。けどどうやら彼女なりに気を使つかっているのだろうと理解したから。それが無性にうれしく感じたのも確かだから。

 きっと、この時僕は満面のみを浮かべていたのだろう。何時からか、正直覚えていないけど。久しぶりの心からの笑顔を。

「うん、これからは僕はテラだ。じゃあ、君達の名前は?」

「私の名前はマナ。マナ=クルツ=アストラルです」

「俺の名前はアルフレッド=クルツ=アストラル。マナの兄だ」

 互いの自己紹介を終えて、僕達は三人揃って笑い合った。

 僕達が打ち解けた瞬間しゅんかんだった。

「そう言えば、一つだけ言い忘れていた事がありました」

「うん?」

 何だろう?急に真剣しんけんな顔をして……

「先程は私達をたすけていただきありがとうございます。このおんは、必ず返します」

 そう言って、マナが深々と頭をげた。

 その不意打ち気味の感謝かんしゃに、思わず僕はほうけてしまう。いや、流石にこれは不意打ちすぎる。他人から恐れられ、まれてきた事はあれ。感謝された事なんて今まで一度も無かったから。

「えっと……あ、ありがとう?」

 思わず、僕はそっぽを向いて赤面せきめんしてしまった。

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