第1話、不死者と兄妹騎士

流石さすがの僕もびっくりだよ、クソッタレ!」

 思わず僕は毒づいた。白髪の頭をき、そっと溜息を吐く。突然の怪奇現象、流石に予想外がすぎる。此処は未知みちの森の中、何時いつどんな事が起きるのか全く予想が出来ない以上は油断ゆだんが出来ない。そもそも、こんな森は日本に無かった筈。

 先程から森の中を散策さんさくしているものの、日本どころか世界のどの森林地帯とも違う雰囲気がある。どういう訳か全く知らない動物どうぶつまで居たし。

 一本角を生やしたうさぎとか、大型犬くらいのサイズはある白い蜥蜴とかげとか。

 そうなると、もはや答えは一つしかないだろう。

「異世界転移、と言った所かな?」

 漫画まんがや小説でよく取り上げられるジャンルである。まさか自分がそれに遭遇そうぐうするとは思ってもみなかったけど。となると、転移てんいする直前に聞いたあの不可思議な声も気になる所だ。

 バキッ、バキバキッ―――

「ん?」

 ふと、背後から木の枝がれる音が聞こえた。振り返る……

 其処には、後頭部に二本の角を生やした巨大なくまが居た。

「う、うわぁっ……」

 思わず声が出た。口元が引きるのが、自分自身理解出来る。

 もう一度言おう、其処には後頭部に二本の角が生えた巨大な熊が居た。流石に驚くなというのが無茶むちゃだろう。というか、かなりデカいし威圧感いあつかんが半端ない。並大抵の熊ではないだろう。

 大体、サイズも通常のヒグマの倍くらいはあるだろうか?デカい。

 ぎょろりと熊の目が、僕の方を向いた。同時に莫大な殺気さっきが放たれる。どうやら獲物と認識にんしきされたようだ。

「へぇ、やるかい?熊」

 へらへら笑いながら(内心びくびくしてるけど)僕は真っ直ぐに熊を見据みすえた。

 不死者と熊の戦いが今、此処にはじまるよ~……ってね?

 ……そして、一時間の後、僕は熊の肉と其処らへんでってきたキノコを火で焼きながら食事をしていた。まあ、その事からも理解出来ると思うけど僕が勝った。とはいえ楽に勝利した訳ではない。何十回も死ぬほどの文字通り死闘しとうの末に勝利した。

 その証拠しょうこにほら、僕のふくがもうボロボロになって見れたものじゃない。辛うじてズボンの大事な部分は死守ししゅしたけどさ。もうほとんど服として意味が無いんじゃないかなと思っている。

「む、このキノコどくがあったか……」

 どうやら毒キノコだったらしい。さっきから身体がしびれて気分が悪くなってゆく。

 どうやら食べたら即死そくしする類の毒だったらしい。けどまあ、僕は気にせず食べるけどね。そもそも、その程度ていどで死ぬような身体はしていないし?

 もちろん、熊の肉と一緒においしくいただきますよ。

 ……ん、この鉄臭てつくさいにおいは?

「……こっちかな?」

 の臭いを感じ取って、僕は様子ようすを見る為にそちらへと向かう事にした。いつも通りへらへらとした笑みをわすれずに。

 ・・・ ・・・ ・・・

 ナナシの森―――

 此処ここは地元住民からそう呼ばれている森である。その森の中で、現在騎士姿の少女が同じく騎士姿の青年と共に盗賊らしき男達にかこまれている。

 男の騎士はかがやくような金髪に、程よく引き締まった身体とんだ青い瞳。女騎士は薄い桜色さくらいろの髪に透けるような白い肌、そしてやはり青い瞳をしていた。

 女騎士は怪我をしており、男の騎士はそれをかばって立っている。どう見ても騎士達が不利なのはあきらかだった。

「へへっ、あの女騎士はきにして良いんですよねお頭?」

「ふっ、好きにしろ……」

「へへっ、今から興奮こうふんしてきたぜ……」

 そんな下卑げびた会話をしている。騎士二人が顔をゆがめる。特に、女騎士の方は僅かに身体をふるわせている。後の自分の境遇を想像してしまったのだろう。

 騎士二人は端的たんてきに言ってピンチだった。

 そう、この場にイレギュラーがあらわれない限りは……

「ぐあっ⁉」

 突然現れた白髪はくはつに赤い瞳の少年。彼がその手に持っている拳大の石で盗賊の一人を殴り殺してしまった。

 その姿に、騎士二人は呆然ぼうぜんとする。それは、どうやら盗賊達も同様だったらしい。

「なっ、何だてめえはっ‼」

 盗賊の一人が戸惑とまどいながらも叫ぶ。しかし、彼はそれにこたえる事はしない。そのままその男も殴り殺した。

 呆然としていた騎士はそれどころではないとさとり、白髪の少年を殺そうと襲い掛かる盗賊を剣で切り倒した。

「御助勢感謝する……」

 男の騎士は感謝をべるものの少年はそれに答えずに盗賊を見据みすえる。そうして、盗賊は倒されてゆき最後の一人が残った。

 形勢逆転。しかし、最後に残った盗賊は何処までもあきらめが悪いらしい。ナイフを手に女騎士に突進を仕掛けた。或いは女騎士を人質ひとじちにして逃げ延びようとでも考えているのかもしれない。

 それを察した白髪の少年が、女騎士をかばう為に間に割って入った。ナイフが、抉り込むように少年の胸にき立つ。

「「っ⁉」」

 庇われた女騎士と、それを目撃もくげきした男の騎士は同時に息をむ。対する盗賊は狂ったような高笑いをげていた。いや、既にこの時には狂っていたのかもしれない。

 女騎士を人質にする作戦は失敗しっぱいに終わり、もう自分に後はないと悟って。

「くっ、くは……ははははははははははははははははっ‼馬鹿ばかな奴だ、他人を庇って死にやがった‼はははははははははははははっ‼」

 盗賊は狂い笑う。騎士達は顔を蒼褪あおざめさせ、犠牲ぎせいとなった少年を見た。しかし、此処で驚くべき事態じたいが発生した。

 まるで、何でもない事のように少年がき上がった。当然ナイフで抉られた筈の傷口は消えてくなっている。

「「「はっ?」」」

 騎士二人に盗賊は三者三様の疑問符ぎもんふを浮かべた。何故、刺されて死んだはずの男が起き上がったのか?理解出来ずに思考停止する。

 困惑により思考停止した盗賊に向け、少年はにやあーりっと口のはしを三日月のようにゆがめて笑った。その笑みは、盗賊に恐怖きょうふを与えるのに十分だったらしい。

「ひいっ‼」

 ナイフを捨て去りそのまま少年に背を向けてげ出した。少年はそんな盗賊に血で真っ赤に染まった石を投げつけた。それは盗賊の後頭部に見事命中し……

「うぎゃっ‼」

 その命をり取った。

 ・・・ ・・・ ・・・

 最果いやはての島、地底城最奥―――

 玉座に一人の男が座っていた。男は水晶を眺めながら口元を僅かにゆがめる。

「ほう?これは、使えるか……」

 男は指をぱちんとらす。すると、其処に最初さいしょから居たかのように一人の少女が姿を現した。少女は黒い騎士甲冑を身にまとっている。黒い女騎士といった見た目だ。

 黒い女騎士は男の前にひざまずく。

「お呼びでしょうか、陛下へいか

「うむ、これより神国しんこくへ少しばかりの魔物をおくる。いいか、少しちょっかいを掛ける程度にとどめておくのだ」

「ちょっかい、ですか?」

「うむ、我らを無視むしできぬ程度に。そして警戒けいかいして身動きが取れぬ程度にちょっかいを掛けるのだ」

「はっ」

 瞬間、黒い女騎士はその場から消えた。水晶玉に映った不死者の少年。白髪の少年に男は笑みを向ける。

「さて、彼は俺の望むだけの力を持つかいなか……」

 玉座の間に、男の……魔王まおうの笑い声が響き渡った。

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