最弱のイモータル~カクヨム版~

kuro

壊れた心の不死者

プロローグ

 それははるか昔、初代天皇神武の時代よりも遥か昔。僕の記憶きおくは其処から始まった。

 深い、深いもりの中。一人の少女が森の奥のひらけた場所にまだ幼い赤子だった僕をそっとかせる。

「……ごめんなさい。今の私にはこれしか出来できない。今の私じゃ貴方をまもる事が出来ないの。本当にごめんなさい」

 少女はそう言って泣きながらっていく。それが、少女の顔が僕の瞳にはとても悲しげに写って。滂沱ぼうだの涙を惜しげもなく流していて。その悲しみが、不覚にも僕にも伝わってきて。

 僕は、大声でいた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 これは、原初の記憶。決して消える事のない。名も無き不死者ふししゃである僕の過去。

 神代かみよと呼ばれた時代に生まれた僕の記憶だった。

 ……そして現代。2000年代の平成へいせいと呼ばれる頃。日本にある東京秋葉原。

 とあるビルの屋上おくじょうに僕は立っていた。

「さて、そろそろ来る事かな……」

 屋上の扉を見る。瞬間、勢いよく扉はけ放たれスーツにサングラスのいかにもな男達がわらわらと出てくる。その男達は何を思ったのか?次々と拳銃けんじゅうを構えて僕を取り囲んでくる。

 はぁっ、また駄目だめだったか。戦闘の意思いしはないと伝えた筈なんだけど……

 もう、へらへらと笑うのもつかれてきたよ。まあ、笑うのは止めないけどさ。

「今度こそい詰めたぞ、バケモノめっ‼」

 スーツの男の一人がそうさけぶ。

 バケモノ、ね……

 そう、バケモノ。スーツの男達は皆僕の事を人間ヒトだなんて思っていない。皆、僕の事を化物と呼んで忌避きひする。それは何故なぜか?

 それは、僕が遥か永い時を生きた正真正銘の不死者ふししゃだからだ。

 僕は遥か永い時を生き続けてきた。その起源きげんは初代天皇よりも前の時代まで遡る事になるだろう。つまり、僕は神代かみよの時代から生きている事になる。まさに怪物と呼んで差し支えないだろう。

 さて、そんな僕だが現在拳銃を向けられている。はたから見れば拳銃を向けられてへらへらと笑っているように見えるだろう。もちろん、これは作り笑いだ。いや、どちらかといえば仮面ペルソナを被っているという表現が正しい。

 これは僕の処世術しょせいじゅつだ。どんな時もわらって過ごす。どんな時も笑顔は欠かさない。

 それが、僕の生き方だった。

 しかし、そんな僕の笑顔はやっぱり僕を化物と呼んでいるスーツの男達には不気味に思えたようで。次々と拳銃を構えて発砲した。

 拳銃から放たれた弾丸は僕の身体に吸い込まれるように穴を穿うがち、衣服を血に染めてゆく。あ~あ、この服けっこうたかかったのに。また買い直さなきゃ。

 その間にも、発砲は止まらない。むしろ、彼等には止める気が無い。

 この程度の発砲で僕が死ぬ筈が無いと知っているからだ。故に、雨あられと銃弾が撃ち込まれてゆく。

 ついに僕はバランスをくずし、ビルの屋上から落下らっかする。

 ……ま、わざとですけどね!

 にやりと、僕は最後に不敵ふてきな笑みを浮かべてみせる。そう、わざと僕は屋上から落ちて見せたのだ。

 不死者である僕は、ビルから落下した程度で死ぬ筈がない。そんな程度で死ねないのである。

「はっはっはっ、さらばだ‼」

 そう言って、僕はそのまま地上まで落下していく。筈だった……

 その後、僕ですら予想だに出来ない事態じたいが起きなければ。

『———星のうみを超えて広がる多次元世界よ、今此処にもんを開き繋がれ』

「……え、何この厨二的展開は?」

 言っている場合じゃない。突如空間がけて僕はそのまま裂け目に呑まれて消えていった。気が付けば、僕は全く知らない未知みちの森の中に居た。物語は此処からはじまった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 其処は、何処かの義式場ぎしきじょう。其処に、神々こうごうしい衣服に身を纏った男女が立っていた。

「……えっと、あの子は無事召喚出来ましたか?」

「いや、半分失敗した……」

「っ、そんな‼」

 男の言葉に、女は悲痛ひつうな声を上げる。だが、そんな彼女に男は大丈夫だと比較的落ち着いた口調でげる。

「大丈夫だ、召喚自体は成功せいこうしている。ただ、召喚時に何らかの干渉が入り座標が大きくズレた。恐らく今はアストラル王国おうこくに居るだろう」

「王国、アストラル……」

「あの国の国王ならまだ話が分かる筈だ。だったらまだあせるには早すぎる」

「……はい、そうですね」

 顔を俯け、かげらせる女を男はおもむろにき寄せる。

 女は男の顔を見上げる。男は女に気を使ってか笑顔を見せている。

「大丈夫だ、今度こそ三人で一緒に……家族一緒にらそう」

「……はい、そうですね。いえ、そうね。私達家族で一緒に」

 義式場の燭台しょくだいに灯された火が、そんな二人をらしていた。

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