第3話

「何で行かせたんだっ!」

 ドアをさえぎり、鴻巣を外に出すまいとしていたのは、死んだ高砂の霊だった。鴻巣とともに事務所を訪れ、ドアを開けたのも高砂だ。

 事務所にいるときは霊視防止の紫水晶のメガネを外しているため、鴻巣も高砂も、スメラギの目には霊体とうつってみえ、そのつもりで会話していたら、鴻巣は生身の人間だとわかった。霊体がそばにいるとやけに冷える。そうでなくても12月はすぐそこに迫っていて寒くなっているというのに、かわいそうに、鴻巣は、その魂が肉体を抜け出しているのではないのかというほど白い息を吐いて震えていた。

 鴻巣はスメラギの正体について何も知らされていなかった。スメラギには、この世の生きた人間と同じように死者の姿がみえる。生まれつき髪が白いのは、その特異体質と何か関わりがあるのかもしれない。霊を見、霊と話ができるスメラギは、この世に心残りのある霊たちの頼み事をきき、あの世へ送り届ける仕事をしている。

「じいさん、あんたも死んだ今ならわかるだろ。生きた人間には生きた人間の、死んだ人間には死んだ人間の世界がある。生きた人間は死んだ人間の世界にかかわれないし、死んだ人間も生きた人間の世界に、顔だの足だのつっこめねえんだよ」

「それじゃなにか、お前は、俺におとなしく死んでろってのか。死んだ、殺された人たちも黙って死んでろってのか。それじゃ、それじゃあ、殺され損じゃねえか!」

「言ったろ? 死人には死人の世界とルールがある。犯人はいずれ地獄で裁きを受けるさ。殺人なら、自分が相手を殺したのと同じ方法で殺され続ける、それが地獄のルール、死人のルールだ」

「そんなら、犯人が死ぬまで待ってねえとなんねえじゃねえか。それまではのうのうと生き続けるのか? そんなの納得いかん。生きているうちに罪をつぐなうべきだろう?」

「それは生きている人間のルールが決めるこった。だから、警察があるんだろう? 警察ががんばればいいこった」

「それができてりゃ、俺は死んでまでお前のところに頼みに来たりしねえっ!」

「悪いが、犯人探しは俺の仕事じゃない。俺の仕事は、心残りの解消ってやつさ」

「じゃあ、これは仕事だ。俺の心残りはあの事件を解決できなかったことだ。お前、俺の心残りを解消しろ! あの事件のホシをあげろ!」

「ケーサツじゃないから、それは無理」

「だって、おまえ、5年前のときは……」

「あれは俺の個人的事情が絡んでたからな」

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