肉を食べてもいいか

「はい、来ました! 肉論争!」

「君の専門分野だね。やる気満々じゃないかじゃあ早速……」

「肉、食べてもいいに決まってるだろ、はい、終了」

「え、ちょ、って、ええええ⁉ 何、勝手に終わらせてるんだよ」

「面倒臭いなぁ。食べたいから食べてもいいんだよ、それでいいでしょ」

「いやいや、そんな理由じゃなくてさ、もっと真面目にやってよ」

「はいはい、分かったよ。じゃあ、逆に聞くけど、食べちゃいけない理由は何なのさ」

「えっと、人間は人間の肉を食べてはいけないのに、動物の肉を食べていいのは差別じゃないかって理由らしいよ」

「ふぅん、でも人肉文化あったんでしょ、カニバリズム」

「それは特殊っていうか、異常思考者だよね」

「そう決めつけるのも差別なんじゃないかなぁ」

「え、そうなっちゃうの? 人肉食うって、倫理的にダメだよね? 僕、間違ってないよね?」

「うん、人肉は食べちゃダメだよ」

「だよね、そうだよね」

「で、さあ、さねちーは肉食ってもいい派、いけない派?」

「うーん、別に肉は食わなくても生きてはいけるんだよね」

「さすが、三食カロリーメイトでも大丈夫な男さねちー」

「生きていけれる栄養が摂れれば問題ないし」

「さすが味オンチ」

「さすがの使い方間違ってるね」

「本当、さねちーは味オンチで可哀想だよ。美味しいのにな、お肉」

「まあ、どうしようもないからね」

「開き直るんだ……」

「味覚はもう諦めたよ。好き嫌いがないって点では良いと思うけど」

「僕も好き嫌いは、あんまないけど、食を楽しんでるよ。さねちーは、ただの栄養補給って感じだけど」

「その通りで反論できないね」

「何か張り合いがないなぁ……。じゃあ無人島に一つだけ持って行くとしたら何持っていく?」

「え、何故に、そこに着目しちゃうの?」

「まあ、僕は一つだけって制約があるくらいなら、潔く何も持っていかないけどね。全て現地調達」

「自分から質問しといて何だよ。君はそれでも普通にサバイバルできちゃいそうだけど」

「さねちーは何持っていくの? お金?」

「お金は大切だけど、無人島であっても必要ないでしょ」

「まあ、いざとなれば、火をおこすのに使えるかな、燃えるし」

「絶対持っていかない、銀行とか金庫の方が千倍、安全だ」

「じゃあ何持ってくの?」

「一つだけって言われると困るなあ。カロリーメイト一年分は、ダメだよねえ」

「ダメに決まってるでしょ。つまらない答えだなぁ。もっとボケろよ」

「何で普段ツッコミの僕にボケを求めるんだよ。さっきの君の答えだって、そんなに面白くなかったよ。ていうか、そろそろ話戻そうか」

「何の話だっけ。ああ、ブラックジャックの話か」

「違うわ! 肉食ってもいいか、いけないかの話だよ! うーん、じゃあ、それが差別になるのかについて……」

「じゃあ、例えば、さねちーが新入社員を雇うとして、僕とお兄さん、どちらを雇いますか?」

「え、何その例え。どっちも嫌なんだけど」

「それはダメ。僕は農学部出身だけど、フットワークは軽いし、度胸もある。対してお兄さんは東大入れるくらい頭良くて、プロファイリングできるけど、コミュ障ヒキニート」

「うーん」

「関係ないことで選んだら差別だからね。仕事できるかどうかだけで選ぶんだよ」

「君はすぐフラフラしそうだし、有明君(兄)は人にビビるし」

「僕の方がいいと思うけどなぁ。銃使えるし気功使えるし」

「それこそ関係ないよね。そういえば有明君はパソコンに強いんだっけ」

「えー、でも営業とかプレゼンとか無理じゃん」

「君だって経理無理だろ」

「お兄さんはヒキニートだからこそ輝けるんだよ。仕事を与えちゃダメだよ。出来ないことをすべきって言うのはいけないよ」

「無茶苦茶な話だね。ヒキニートで輝いてる有明君って一体……。有明君だって頑張ったら働けるはずだよ。やってやれないことはないんだしさ。東大入れたんだから……」

「でも中退だよね。最終学歴高卒だよね。僕は農学部卒だけど」

「そこなんだよな……。せめて東大卒だったら良かったのに」

「やっぱり学歴で決めるの? それこそ差別じゃない?」

「一種の考慮材料だよ。それだけじゃ決めないって」

「慶応は積極的に入れるけど、早稲田は入れませんとか」

「それは差別だね! 勿論そんなことはしてないよ。早稲田の社員もいるし。こんなところで早慶戦はしないよ」

「じゃあ何で農学部卒は入れてくれないの?」

「そもそも農学学んでいた人が、僕の会社受けに来るの? うち金融業だよ」

「僕がいるじゃん」

「いや、君はただコネ入社がしたいだけだろ」

「何ならボディーガードでもいいよん」

「それは考えておこうかな」

「良い返事を期待してるよん」

「何で、こんな話をしているんだろう。……契約論について話そうか」

「御社との契約は破棄させて……」

「それは聞きたくない方の言葉だ! 経済の方じゃなくて哲学を語ろうよ」

「そだね。道徳のきまりが契約論だっけ。……人を殺してはいけません、人の物を盗ってはいけません、マネーロンダリングはいけません、社長だからってパワハラはいけません」

「途中から、すごく具体的になってきてるね。してないからね、どっちも」

「えー、本当かなぁ」

「本当だよ。全くもう、君ってやつは……」

「ああ、もう、そんなに文句タラタラだと、幸福量下がっちゃうよ。僕も、さねちーの愚痴を聞かされると幸福量が下がるんだけど」

「ごめん」

「まあ、さねちーには、お金あげとけば、すぐに幸せだから」

「単純な奴みたいに言うなよ」

「マジ、ちょろいっす」

「おい! あっ、そろそろ、まとめに入らないと……」

「僕は肉食べていい派、食べることで幸福に繋がる。今更、食生活変えろって言われても無理」

「僕は食べなくても大丈夫な派かな。実際さ、牛一頭から摂れるタンパク質よりも、牛の餌としての穀物から摂れるタンパク質の方が多いんだよ。コストの面から考えて、肉を食べない方が費用は抑えられるんだよ」

「効率の良いことしか考えないんだから……」

「だって、よりコストのかからない方がいいじゃないか」

「結局、最後は、お金の話か。さねちーらしいね」

「そりゃ、どうも」



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