正義(差別、能力差)について
「これから正義の話をしよう」
「どっかで聞いたことのあるタイトルだね。ていうか、それ言いたかっただけだろ」
「うん。で、今回は正義についての話だけどさ、さねちーは能力主義だよね」
「え、うん、まあ、そうだね。ノージックのリバタリニズム(強い人が自分の力で得たものは、その人のもの。差がついていい)に近いかな」
「自分で稼いだ金は自分のもの」
「当たり前じゃないか!」
「世の中は金が全てだ」
「そうだ、ゲフンゲフン、そ、そういう話は置いておこうか」
「家柄がいいだけで社長になれるのって不正だよね」
「痛いとこ突いてくるなあ。確かに、真葛家は、それなりに良い家柄だけどさ。僕が社長なのは家柄のお陰だけじゃないよ。僕の努力も大きいんだからね」
「じゃあもし、真葛家の生まれじゃなくても社長になれていた自信はあるの? さねちーのおじいちゃんが元手金を出して、本家の子が社長を譲ってから、さねちーは社長の椅子に座れてる訳だよねぇ」
「う……、それは……」
「さねちーだけの能力じゃないよねぇ? もしかしたら、さねちーは社長に値しない人間なのかもしれないねぇ」
「で、でも僕は自力で慶応に受かったし」
「本当に自力だったのかなぁ。真葛家って慶応出身者、多いんでしょう? もしかしたらコネと裏金があったのかもしれないね」
「ふ、不正はなかったんだ」
「本当かなぁ」
「ていうか、何で今日は、こんなに攻撃的なの。何か嫌なことでもあったの?」
「いやぁ、僕の家族は、もういないのに、さねちーのとこは血みどろの遺産相続争いができるほど、親族が残っているんだねぇ。いやぁ、本当、羨ましい限りだよ、やっぱ家柄だよね。ま、誰も家柄に値して生まれて来ないし、どの家に生まれるかなんて、運次第だけど、いやぁ、さねちーは運が良くて良かったねぇ」
「ちょ、何でこんなに嫌味っぽいの? 図太い僕でも、さすがにグサッと刺さることばかりだよ。もっと和やかにいこうよ、ね?」
「だったら、あやとりでもするかい?」
「何でだよ!」
「あーあ、学力社会じゃなくて戦闘力がモノを言う時代なら良かったのに」
「何で君はそんな世紀末思考なの。自分の会得した奥義を見せびらかしたいの?」
「五月蝿いよ。戦闘力7のカスが」
「何でベジータ風に言ってるんだよ。ていうか、地球人なら、それでもけっこう良い方だろ」
「ちなみに僕の戦闘力は『何⁉ 戦闘力100万だとっ⁉』です」
「フリーザ様のモノマネもいいから。似てないし。100万もあったら超サイヤ人レベルじゃないか」
「いいえ、超地球人です」
「パロディをパロディするなよ」
「ホントさねちーって、揚げ足取りが好きだよね」
「揚げ足取りって言うな。ツッコミって言ってくれ」
「真面目な話、とにかく、さねちーは良い家に生まれて良かったね。たまたま運が良くて良かったね」
「あー、もう何で、そんなに恨みったらしいの?」
「せめて格差を埋めるために、さねちーは貧しい家に金をバラまくべきだよ。金、沢山あるんでしょ」
「嫌だよ」
「全く、これだから金持ちは……。ケチな金持ちは殺害されるんだからね」
「土曜ワイドの話を持ってくるな」
「いやいや、だって不公平だと思わないかい? 裕福で何不自由なく暮らしてる人がいる一方
で、どんなに頑張っても報われない人がいるなんてさ。そうだろ、さねちー?」
「そ、そうかもしれないけどさ……」
「さねちーは今の地位から引きずり降ろされるのが怖い、財産を失うのも、失敗するのも怖いんだよ。一回、ドン底を経験してみなよ」
「そ、それは……」
「嫌なんだろ。結局、さねちーは良い家に生まれたことを心の何処かで喜んでいるんだよ。その家に生まれ、社長になったからこそ、強い者だからこそ、君はリバタリアニズム(自由至上主義)なんだよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「とりあえず累進課税で税率100%にすればいいんじゃないかな?」
「2倍払わないとダメじゃないか! 税率100%とか、ふざけんなよ!」
「こっちから言わせれば、今まで散々、良い暮らししてきやがって、ふざけんなよ!」
「それにしても税率100%は、やり過ぎだよ」
「真葛家だけね」
「そっちの方が差別だ! 僕の家だけじゃなく、官僚やセレブ家庭も道連れだ!」
「そんなに怒るなよ。500万のものが1000万になるだけじゃないか。払えるだろ、余裕で」
「けっこう大きいわ! せめて5円が10円になるくらいの喩えを使えよ」
「全くもうケチだなぁ。500万をはした金って思ってる奴もいるだろ」
「思っている奴だけ税率100%にすればいいだろ」
「じゃあ、それでいいけどさ。せめて飲み会の費用キッチリ割り勘はやめようよ。僕は高等遊民だし。社長が出してくれよ」
「一回だけね。ていうか、君は早く定職に就いてくれよ」
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