肉がちょうど良い加減に焼けてきた頃だった。

突然「それ」は訪れた。

 一瞬にして気温が下がり、周りの草花に霜が降りて凍っていく。僕はその突然の出来事に驚愕し、自分の身を守る術を探そうとする。

 そして、僕は「それ」に行き遭った。

 狼。

 正しくは、狼のようなもの。「それ」は狼であって狼でない。狼に限りなく近いけれど、決して狼ではない。

怪しく異なるもの。即ち「怪異」。

通常の狼の三倍ほどの体躯。輝くばかりの白銀の毛並み。鋭い眼孔。どことなく漂う気品。何ものをも寄せ付けない、圧倒的な孤高。

美しい、と思った。

暫くの間、僕は考えることを忘れ、見蕩れていた。


どのくらいの時間、惚けていたのだろうか……。僕が我に返った、いや返ることが出来たのは、長年のハンター業の賜物だろうと思う。

そして、ハンターとして冷静に分析を始める。

こんな生き物は見たことがない。そもそも生き物であるかも分からない。何というか、この世のものではないような気さえする。今まで見てきたどんな生き物とも違う。生き物としての一線を越えたような存在。   ―――――本当、どうしたら良いか分からない。

僕のハンターとしての勘が、こう告げている。こいつには勝てない、と。逃げるか、いや無理だろう。彼が本気になれば、僕は瞬殺される。第一、逃げるにしたって足が動かないじゃないか。視線は釘付けに、足は氷付けにされている。辛うじて手は動かせるが……。

だったら、どうする?

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