狩り
フィンランド滞在三日目。僕は森の中で猟銃の整備をしていた。一日目二日目は普通に街中を観光し、そこで知り合った地元ハンターから銃を借りたのだ。勿論狩りをするために。今日の夕飯は狩った動物を焚き火で焼いて食べる予定だ。
僕は狩りをすることがけっこう好きだ。現代日本に生きていると、僕のような考えは嫌悪の対象となるだろう。気持ち悪いとか、動物を殺すのが可哀想とか。自分達だって、調理の過程を見ていないだけで、その殺された動物の肉を平気で食っているくせに。まあ、そんなことを面と向かって誰かに言うなんてことは、めったにしないけれど。無駄な議論はしたくないから。……僕が狩りを好む理由はもう一つある。それは、余計なことを考えずに済むからだ。目の前の獲物に集中していればいい。自分が今から命を奪う生き物と真剣に向き合う。それが誠意ってものだろう、と僕は思う。
「さて、と。……それじゃあ、一狩りいきますか」
整備を終えた銃を抱え、僕は戦地へ赴いた。
狩りの結果はまあまあだった。牡鹿一匹。一人なので一匹いれば足りる。角は銃を貸してくれたハンター にあげようか、と考えながら僕は獲物の解体をしていた。「るろうに雪兎」なんて言っている割に、使っている武器は猟銃とナイフだが。
「いっそ刀鍛冶に依頼して、逆刃刀とか作ってもらおうかなぁ。馬鹿にされるかもしれないけど」
どうでもいい独り言を呟きながら、肉を焼く。チリチリと音を立てながら炎が燃えている。煙が昇っていくのを眺めながら、ぼんやりと空を見上げる。
星がきれいだ。何も考えずに、ずっと星を眺めていられたら、どんなにいいだろうか。でもそんなことは出来なくて、今日も思索の海に入ってしまう。静かであればあるほど、孤独であればあるほど、僕は考えてしまうのだ。……いつか、新しい家を建ててそこで暮らしていきたい。長閑な田舎がいい。人が多くて空気の汚い都会は嫌いだ。家族は、欲しいのだろうか?
失ってしまったものはもう戻って来ないけれど、新しく作ることは出来る。そして、それが僕の居場所になったら……。
それが「ほんとうのさいわい」なのだろうか?
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