第2話 赤ずきんは乙女ゲーか?

えっちな乙女ゲーになるやつだろう?


__なるやつだろう?___だろう?____ろう?

脳内で反響する、ムダいい声に色々なものが吹っ飛ぶ。


「…………???」


私は口を開き、しかし声は出ずぱくりと空気を食い、またもや口を開き、そのまま首を傾げた。

ぺきっ、と斜めを向いた首は嫌な音を立てる。

ったいな、もう。


「??……えーっと、なんて?」


もしかしなくても幻聴だろう。私はそう思って蘭華さんに聞き返した。

こてんと首を傾げ、蘭華さんは麗しい声で。


「赤ずきんは成人向け乙女ゲーになりかねないよって」


「おーけーおーけー。私の耳は本格的に狂ったらしい。」


私はを変えろと言ってるんじゃ無い。を変えろと言ってるんだ。

どうしたら童話がえっっ、な乙女ゲーになるんですか落ち着きなさい寝言は誰もいない自分の部屋で寝ながら言いなさい。

なんということでしょう。

脳が激しくバグっております。

まず登場人物めちゃくちゃ少ないでしょうが。


「まず登場人物めちゃくちゃ少ないでしょうが‼︎」


おっと、声に出てしまったようだ。

でもそうだろう?事実だろう?

だって乙女ゲームというのは複数の攻略対象を、地道にイベントとかこなして好感度とか上げていくもんだろう?

考えられる攻略対象、千歩。いや、一万歩譲って猟師と狼よ???


「だって、ペロリと食べられ……あ。」


何かに気づいたように蘭華さんは手を打った。

ぽんっと軽い音が鳴った。


「玲奈はグリム派かい?」


「何のお話でしょうか??」


ぐりむ、……グリム?グリム童話ってこと?

多分そう。私が昔読んだのはグリム童話だった気がする。

と言うか、他に何が?


「グリム童話以外にいったい何があるの?」


「甘いな玲奈。グリム兄弟が、全ての童話を書いているとでも?」


「まず兄弟というのを初めて知ったよ。」


がーん、と効果音がつきそうなほど衝撃を受けた顔になる蘭華さん。

だからムダいいお顔でおやめなさい?


「グリム童話は!兄弟で!書いているんですっ!」


「そっかー、喧嘩しなかったのかな。」


「そりゃそこにも何かドラマが……って違うの!」


ノリツッコミを一人で完成させる蘭華さん。やっぱり面白い人だなぁと私はふっと笑った。

そんな私に、あらぁ?と蘭華さんは目を細めた。

………おっとぉ?


「今から、私が玲奈のために赤ずきん講座を開いてあげるわ」


「遠慮させてください」


丁重にお断りする。

こうなった蘭華さんは、正直言って面倒くさいのだ。

すでに一度経験していたのだが……どうもスイッチの入りどころがわからない。


「君に拒否権は無い!早く帰っても何もしないからと居残ったものの、結局教室でも何も勉強せず自堕落な時間を過ごしているような君には!」


「わぁ、激しくブーメラン。」


真実ではあるが、それなら蘭華さんだって変わりはない。

五十歩百歩ではあるが、数学のワークを少しだけ解いていた私と、何もせずに外を眺めていた蘭華さんなら、むしろ蘭華さんの方が自堕落な時間を過ごしていると言えるだろう。


「私は別にいいんだよ!」


「なんもいい点数とって無いけどね。」

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