蘭華さん⁉︎それは乙女ゲーの原案じゃありません‼︎

夏 雪花

第1話 蘭華さん、ご乱心(定期。)

放課後。

夕陽の差し込む教室、窓際の席にて。

サラサラ黒髪の女生徒が、頬杖をついて外を眺めていた。

結われていない髪が顔に影を作り、物思いにふけかおはさながら絵画のようだ。

彼女__蘭華らんかさんは、はぁ。とため息を吐くと、花も恥じらうほどの美貌で、


「乙女ゲーが、世界には足りない。」


「出たよご乱心」


絵画の貌でそんなこと言わないでくれ、頼むから。友人の扇堂せどう蘭華さんのご乱心に、私はため息をついた。

この乱心、カッコづけして、定期。と語尾につけたいくらいに定期的なものである。

蘭華さん、ご乱心(定期。)とでも言うように、テロップでも作ろうか。


「この世のー全てのーー文学作品はーーー!乙女ゲーーーー!!」


「ちょっとずつ伸ばすな。」


良い声の無駄使い、その言葉がよく似合う。

蘭華さんは、様々な長所を持つ人だ。

百七十をこえるスラリとした高身長、艶めく黒髪の似合う美貌、十色の美声。

現職小説家を目指す、稀に見る文才。しかし、


「玲奈!この世の全ては乙女ゲーになる素質を秘めているんだ‼︎」


「うーん、残念。」


これである。

全てを振り切った乙女ゲーム愛好家オタク

長い手足は持て余すのか運動下手。美声でも歌わせれば人を殺す凶器耳を破壊する音痴。素晴らしい文才を持ちながらも得意教科には偏りが生じ、テストの点数は教師泣かせ。もちろん、悪い意味だ。

天は二物を与えず、というが事実では無い。

蘭華さんは二物も三物も与えられた人間だ。同数を別のところから差っ引かれているだけで。


「今、失礼なこと考えているだろ。玲奈。」


「カンガエテマセン。」


いつの間に、目の前に腕組みをして立つ蘭華さんに、私はカタコトで目を逸らした。


「いーや。絶対に君は『全てが乙女ゲーにはならないだろう』とか考えてるね。」


あ、思考がそっち行きます?

拍子抜けながらも、まぁ、ならないよな。と思っていたので一つ頷いておいた。


「無理だね。いくら蘭華さんの文才を待ってしても、全てを乙女ゲームにはできない。」


「言ってくれるじゃないか!」


どこにスイッチがあったのか、火種があったのか、私の言葉は蘭華さんの琴線に触れてしまったらしい。


「万物は乙女ゲーになり得るんだよ!」


「うわ、暴論」


「なんでもいいから作品名を言って見たまえ!さぁ!」


どこから取り出したのか手帳を持ち、ペンを構える蘭華さん。

そう言われてもすぐに思いつく訳が無い。

私はなんとなく視線を彷徨わせ、ふと、壁の図書だよりを目に留めた。

今月は珍しくフルカラーのそれ。童話特集のようで、童話のキャラクターがゆるいタッチで描かれている。

かぼちゃの馬車に、巨大な豆の木。特徴的な女の子を見て、私はあっと、思った。


「……赤ずきん、とかは?」


「え、あれは」


えっちな乙女ゲーになるやつだろう?

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