第4回空色杯

mirailive05

恋は芳醇(ほうじゅん)

 一目ぼれだった。

 おれ、篠崎圭太は普通の公立高校に通う平凡な高校生だ。

 彼女いない歴=年齢の16歳。

 恋愛に興味がないわけじゃないが、なんとなく同年代の女子には興味が持てなかった。なんて言うか、潤い? が足りないような気がして……

 父は中堅どころのサラリーマン、母はパートに通う主婦。家は中古のマンションの2LDK。絵にかいたような中産階級。

 ある日、そんなうちの世帯の隣に、似つかわしくない家族が引っ越してきた。

 その綾辻家は女性ばかりの三人家族だった。

 未亡人で熟した色気があふれ出してやまない藤代さん!

 深窓の令嬢を絵にかいたような、大学生にしては艶のある藤乃さん!

 そして藤代さん藤乃さんをそのまま熟成させたような藤子さん。

 三人ともおしとやかで、品があり、何より艶やかな華のある容姿。一目でただならぬ育ちだと分かる。

 なんでそんな上流階級の家族がこんな中古マンションに引っ越してきたのかというと、藤代さんの旦那さんが亡くなって、屋敷の維持管理が大変なので処分して、ここに引っ越してきたということだった。

 おしとやかで品のあるたたずまいに、おれは参ってしまった。

 寝ても覚めても綾辻家のことばかりが頭に浮かぶ。上品な色気にくらくらする。

 自分にこんな一面があるなんて、綾辻家に出会うまではまったく思わなかった。

 悶々とする日々。

 もう限界だった。

 今日おれは一世一代の大勝負に臨む!

 気合を入れると、花束を持ち直し、綾辻家のチャイムを押した。

 ドアを開けてくれたのは麗しの藤乃さん。そのすぐ後ろに藤代さん。少し遅れて藤子さんが出迎えてくれた。

 間髪入れずに花束を差し出す。藤乃さんは驚きつつ微笑んだ。

「ごめんなさい、藤乃さんじゃないんです」

 え、わたし? という感じで藤代さんが頬を染める。

「あ、いやすみません藤代さんでもないんです」

 ぽかんとする藤代・藤乃母子。

「藤子さん好きです、付き合ってください!」

 なけなしの勇気を振り絞って花束を差し出す。

 藤子さんは困ったような、でもまんざらでもない表情でおれの花束を受け取った。



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