DV夫

ある日、こんなDMが届いた。

「突然のDM失礼します。もう限界なんです。夫の暴力が酷くて……。料理が不味いと言っては殴られ、子どもの教育がなってないと蹴られ、お隣の男性と話しただけで浮気を疑われ殴られ……、他にも色々……。離婚したいと伝えても、離婚はしないと突っぱねられ、本当にもう限界なんです。助けて下さい」


 俺は依頼者の夫が会社に行っている時間に家を訪ねた。

 訪ねたと言っても、突然目の前に現れるという不法侵入なのだが。

「あ、あなたは……」

 いつも通り、ふっと現れた俺に依頼者は驚く。

「お前が呼んだんだろ、俺を」

「えっと……」

「うらみ屋だ」

「あっ、あなたが、うらみ屋さん⁉」

「ああ、じゃあ早速、どういう風にするかプラン立てようぜ」

「はい。……私は子どもを連れて夫から離れたいです。もう追って来れないくらい遠くに」

「今までやられたことの仕返しはいいのか?」

「それは、やれたらいいのですけど、私の力では何とも……」

「そのために俺がいるんだろ。手伝ってやるさ」

「ありがとうございます。では、それも追加で!」

「承ったぜ」


 その日の夜。

「おい、帰ったぞ」

「おかえりなさい、あなた」

 そう言った途端、俺が夫を羽交い締めにする。

「なっ、何だ、お前は!」

「答える必要はないさ。……さあ、やれ!」

 妻が思いっきり夫を殴る、グーパンで。

「痛えっ! 何するんだ!」

「DVにはDVをぶつけんだよ!」

「はあ⁉ ごふっ」

 妻の全力の右ストレートが腹に決まる。

「お前、こんなことして、ただで、済むと、思ってるのか⁉」 

 妻は無言で蹴りを入れる。

「お前も反省しろよ。これは全部、お前が妻に対してしてきたことだぜ? やり返されないとでも思ったか? バーカ、そんな時のために俺がいるんだ」

「だから、お前は、一体、誰だ?」

「答える必要はないさ。どうせ、すぐに忘れちまうんだから」

「は、はあ……?」

 妻のビンタが続いた。


「すっきりしたか?」

「ええ、とっても」

 顔を腫らした夫を横目に、妻は憑き物が落ちたように、すっきりした顔をしていた。

「じゃあ、今後のことだが……」

「ええ、どうやるのかは分かりませんが、よろしくお願いしますね」

「ああ」

 妻は荷物をまとめ、子どもと手を繋ぐ。

「ママ、お出かけ?」

「うん。遠くに行くの」

「パパは?」

「そんな奴、最初からいないのよ」


 二人が出て行った後、俺は夫の頭に触れる。

 記憶操作。

 こいつは最初から結婚なんてしていない。

「これも捨てとくか」

 俺は男の指から結婚指輪を外し、外に投げ捨てた。

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うらみ屋悪魔のベルフェさん 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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