あの娘(こ)はいつだって

黒姫百合

第1話 あの娘は誰にも渡さない

 あの子を見ているだけで心が躍った。


 あの子と話す妄想するだけで夜も眠れなかった。


 あの子と話してみたい。


 あの子と一緒にデートしてみたい。


 少女の思いだけが募っていく。


 だけど一つだけ嫌なことがある。


 それは少女が他の人と楽しそうに話しているのを見ることだ。


 私以外に笑顔を向けないでほしい。


 少女の笑顔は私にだけ向いてほしい。


 私は、少女と話す人全員に嫉妬した。


 でも嫉妬したからと言って、私は臆病な性格だったのでなにもすることができなかった。


「おはよう〇〇さん」

「あっ……おはよう」


 クラスメイトの私たちは毎日、あいさつをするぐらいの関係だった。


 それでも挨拶された時は一日中嬉しかった。


 でもタイミングが合わないと挨拶もなく、その時は一日中気持ちが沈む。


 多分少女にとって私は友達の……いや、ただのクラスメイトの一人だ。


 私にとって少女は世界の全てだ。


 少女を自分のものにしたい。


 自分だけを見てほしい。


 そのようなどす黒い欲求だけが肥大化していった。


 そんなある日、ネットでこういう記事を見つけた。


 それは好きな人の髪の毛をぬいぐるみに入れ、大事にするとその人と結ばれる。


 私はすぐにそれを実行した。


 毎日朝早く学校に投稿し、少女の机に髪の毛が落ちていないか探す。


 そしてやっと、少女の机に髪の毛が落ちているのを見つけ、その髪の毛を無くさないように袋に入れる。


 家に帰った後、その髪の毛を少女そっくりに作ったぬいぐるみへと入れる。


「〇〇さん」


 私は少女の髪の毛を入れたぬいぐるみに話しかける。


 もちろん返事はない。


 それでも私は底知れぬ充実感を抱いていた。


 それから毎日、私はぬいぐるみに話しかけた。


 現実の少女には話かけられない分、ぬいぐるみに話しかけた。


 朝のあいさつや今日学校であったこと。


 その光景はまるで友達と話す女の子同士だった。


 数か月後。


 今日も私はぬいぐるみに話しかける。


「おはよう〇〇さん」

「……おはよう」

「?」


 今日もいつも通りぬいぐるみに話しかけると、なにか声が聞こえてきた気がした。


 だがこの部屋には私とぬいぐるみしかいない。


 私は空耳だと思い、部屋を出る。


 ぬいぐるみがずれていたことに私はまだ気づいていなかった。

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