第3話 人生を!!

 それからどうしたかって?

 警察署に到着した俺は爆睡してる女の子を抱きかかえて、仮眠室の一部屋を借りたんだよ。その子のためにな。朝まで長かったなあ、俺は一応勤務中だから寝るわけにもいかず、かといって彼女から離れることもできずでな。次の日には、誰かが連絡してくれたようで夜中とか早朝に子供を預かってくれる保育園にひとまず連絡したようで、俺の仕事は終わり。一件落着って話だ。 ──どうだ、地味で面白くない話だったろ。心のモヤモヤだけが残る後味の悪い内容だろう。


 ……でもな、俺はアレで良かったと思ってる。今話した登場人物はみんな全焼火災の犯人の姿を思い浮かべてた。けれど、あの火災は事故として処理されていたのさ。寝室にあった金属製の灰皿が燃え残ってたので、寝タバコによる火事である、そう処理されていたんだよ。

 犯人なんて居ない、事故だったとみんなそう判断したんだ。実際、全部無くなって証拠もクソも無いんだからな、そうするしかなくてよ。へへへ……。


 え、その後、女の子の行方だって?

 そりゃあ、俺にもわからねえよ。18年前の出来事だし、ぬいぐるみ以外の全てを捨てたがってたような子だぞ。足取りなんか調べようがないな。いや、調べようと思えば追跡はできたかもしれんが、俺はそれをしなかった。する必要性を感じなかったから、だな。

 あの子の人生は、あの夜にリセットされたんだ。

 何かと戦って、何かを捨て、何かを諦め、何かを選んで、次の日の朝に辿り着いたんだ。俺が関わったあの日の出来事はリセットされるべき出来事なんだよ。俺はそれでいいと思ってる。それでいいと、な。


 ああ、話し込んでたらせっかくのヤキトリが冷めちまったよ。

 あん? その子のぬいぐるみのキャラ? ほーん、スマホってのは便利だよな、あーあーそうそう、そんな姿だったわ。キティちゃんだよな、名前くらいは知ってるよ、さすがにな。

 こんなに可愛いのにって? 悪かったよ、さっき大福とか猫とか言ってよお。それにしても、そのキャラクターの服装そっくりだよ、そうそうバーバリーチェックのリボンと帽子を被ったぬいぐるみだったなあ。あの子が抱きしめてたのも丁度そんな感じので……ん? お前にそこまで詳細に話したっけか。

 いや、この話過去にしたか?

 はて、どうだったか……。



「さあ、どうでしょうね。私は知識と教養だけは先輩よりあるような頭でっかちで──しかも、ウラのある女ですから!」


〈了〉


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全焼の行方 不可逆性FIG @FigmentR

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