カワイイは正義じゃない

@arcane

カワイイは真実じゃないかもしれない。

某月某日 日曜日 AM8:00


 その日、日本全土に絶叫と悲鳴が響き渡った。


「ひぎゃぁぁぁぁーーーっ!」

「うわぁぁーーーっ!」

「パパ、ママ! みーちゃんが!」

「いやぁーーーっ!」


 そのほとんどが子どもたちの泣き声だ。驚いて駆け付けた親たちの見たものは。子ども部屋に飾られていた、先ほどまで抱きしめられていたぬいぐるみ達のありえない姿だった。


 可愛いテディーベアが獰猛なヒグマに。

 丸っこくデフォルメされた今年の干支のトラも本来の眼光鋭い獣に。



 子どもたちだけでなく、ぬいぐるみ売り場では大人たちの絶叫が止まらなかった。


 日本国中で人気のパンダは歯を剥き出して立ち上がり、今にも人を襲わんばかり。

 巨大イベントのマスコットキャラは、もともとの動物の生々しいパーツのキメラとなり、星のマークがあった頭部には岩石の塊がめり込んでいた。


 某団体の広報キャラのぬいぐるみは8等身とは程遠い体に嫌な笑顔を貼り付けていた。

 可愛くデフォルメされたものは全て可愛くない方面にリアル化し、もとから可愛いと思われるペンギンなどは、臭わないとはいえ、明らかに「う〇こ」らしきものがこびりついていたり、生々しい傷や欠損がある。


 何なんだよ、これ。

 誰もがそうつぶやいた。


 売上が吹き飛んだことに呆然とする大人たち。トラウマ一歩手前の子どもたち。アクセサリーにしていたぬいぐるみを投げ捨てた若い世代。


 TVや雑誌で騒がれても、原因はわからず仕舞い。オカルト系の評論家や霊能者、果てはぬいぐるみ評論家までが引っ張り出されたが、結論は出ない。超能力や霊能力で解決できる事案でもなかったようだ。この変化はぬいぐるみだけに起こったという事実が確認できた、ただそれだけ。


 そして、ぬいぐるみの変化は、半月後、突然元に戻るが。結局誰もが気味が悪いと一斉に廃棄し、再び手に取ろうとする者はいなかった。そして日本からほぼ全てのぬいぐるみが消えた。


 たかがぬいぐるみ。それは大したことのない事件であり、皆がすぐに忘れたいと思うものだった。さらに半月後。今度は実在した人物をモデルにしたゲームなどのフィギュアが突然「リアル化」するまでは。

 ただ、古代の英雄達の「本当の容姿」を知ることができたと歴史関係者は歓喜したらしい。少なからずがっかりした者たちもいたようではあるが。

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