External Chapter.リセットセット
ところで植芝さんがいないのだから、あの日の出店で提供されたラーメンには当然、植芝さんから抽出した出汁は入っていないことになる。
過去に味わった通り、樋口さんの実力百パーセントで作られた料理は凄まじく不味い。それをお客さんに食べさせてどうなったかというと――、実はどうにもならなかった。
いや、実際はどうにかなったのだが、何にも起きなかったことに結果としてなった。
どういうことかと言うと、樋口さんの作ったラーメンを口にしたお客さんたちは次々と、「食べた」という記憶を喪失していったからだ。
『包々軒』ののぼりが建てられたテントの前。ラーメンの入った椀と割り箸を受け取り、お手並み拝見と麺を少量、あるいはスープを一口だけ啜るお客さんたち。殲滅戦の後をイメージさせる強烈な味が舌を通して脳へと伝わると、即座アラートが頭の中で鳴り響き、彼らは「食べた」という記憶を本能的にゴミ箱にダンクする。
だからその日、「『包々軒』の四代目(予定)が作る料理は壊滅的に不味い」という事実が白日の下に晒されることはなかった。人々はみな、あの食べる拷問器具とも形容できるあの味を、脳内に一ビットたりとも残さずクリーンアップしたからだ。
これが後の世で語られる、出店記録があるのに誰も『包々軒』のラーメンを食べた者がいないという怪談話の真相であった。
(今度こそ了)
植芝さんは美味しい 春菊も追加で @syungiku_plus
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます