第6話 金策

 放課後。


 授業が終わるや否や、レティシアは隣の席の編入生に声をかけた。


「さて、エイル。模擬戦さっきの続きをしましょうか。中途半端で終わってしまったんだもの。あなただって、私との決着を望んでいるはず……ってあら?」


 レティシアが辺りを見回すも、エイルの姿はない。


「エイル?」




 ◇




 授業が終わると、俺は駆け足でダンジョンに潜っていた。


 寮費は前払いだったためそのままグリフォン寮に残れるものの、それ以外の生活費は自分で稼がなくてはならない。


 そのため、ダンジョンでモンスターを狩り、魔石を売却することで生活費を稼ぎつつ修行をしようと考えていた。


 第5層まで潜ると、早速ハイゴブリンと遭遇した。


 相手は2体。


 先手を取れば、こちらが一方的に倒せる数だ。


『<超重領域>』


 ベリアルの超重力がハイゴブリンと俺の身体にのしかかる。


「グガガ……」


「ギギ……」


 苦悶の表情を浮かべるゴブリン。


 重いだろ? 動きにくいだろ?


 今日一日、俺はずっとその中にいたんだぞ。


「はぁぁぁぁ!」


 ハイゴブリンの腕を斬り落とし、続けざまにもう一体のハイゴブリンの関節をへし折る。


『こんな雑魚に何を手間取っている。さっさと殺せ!』


 ベリアルが声を荒らげる。


 まぁ、傍から見てる分にはイライラするだろうな。


 なにせ、わざと致命傷を避けてるんだから。


「ギャァァス!」


 ハイゴブリンが大音量の声で鳴くと、どこからかゴブリンたちが現れた。


『チッ、だから言ったんだ』


 ハイゴブリンの特性上、ピンチになると仲間を呼び集める性質がある。


 そのため、遭遇したら速やかに撃破するのが鉄則なのだが、今回はあえて戦闘を長引かせていた。


「ギギギ……ガッ!?」


「グゴ!?」


 援軍に現れたゴブリンたちがベリアルの重力場に捕まると、その場に膝をつく。


 無力化されたゴブリンの首をはねると、その場に魔石が転がった。


 ハイゴブリンを使ってゴブリンを集め、おびき寄せられたゴブリンを狩って魔石を回収する。


『お前、そういうことか……』


 ベリアルが感嘆の声を漏らす。


 ハイゴブリンを用いたゴブリン集めは、『ヒーローズオブアーク』の序盤では定番の経験値稼ぎだ。


 ゲームと違い、同じモンスターから魔素を集めすぎると耐性がついてしまうものの、今回は金策も兼ねている。


 ゴブリンのものとはいえ、これだけ魔石を集めればそれなりの金にはなるはずだ。


 ある程度狩り尽くすと、場所を変えて再びゴブリンを集める。


 そうして、ハイゴブリンの魔石が12個。ゴブリンの魔石が42個集まると、俺はダンジョンを出た。


 これらを換金したところ、銀貨8枚が今日の利益だ。


 単純に一日あたりの生活費が銀貨2枚だとしても、これだけあれば4日は生活できる計算だ。


 ……これだけあれば、当面の生活は問題ないだろう。


 そうして、俺は意気揚々と帰路につくのだった。




 ◇




 家に帰ると、レイチェルが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、坊ちゃま」


「ただいま」


 部屋に入ると、美味しそうなスープの香りが漂ってきた。


 これ、俺の好物のシチューのニオイか。


「慣れない環境で、坊ちゃまもさぞ大変でしたでしょうから。今日は腕によりをかけて作らせていただきました」


「でも、材料だって安くなかっただろう」


 レイチェルが「ふふん」と得意げな顔をした。


「ご心配なく。このレイチェル、日頃から貯金をしておりました」


 それじゃあ、俺の食費をレイチェルの貯金から工面しようとしていたってこと!?


 使用人に養ってもらう主って、これじゃあどちらが主かわかったもんじゃない。


 俺はカバンに手を突っ込むと、今日の戦果を差し出した。


「とりあえず、ここから食費やら生活費を出してよ。……さすがにレイチェルの貯金を崩させるわけにはいかないだろ」


「ですが……」


「それに、親父のところを出た以上、いまは俺がレイチェルの主なんだ。……少しはカッコつけさせてよ」


 親父に怒られるのを覚悟の上で、レイチェルは厚意で俺の元に残っていてくれた。


 ならば、レイチェルの心意気に少し報いてやりたいというもの。


 差し出した袋をおずおずと受け取ると、レイチェルが頬を緩めた。


「そこまでおっしゃるなら、遠慮なく使わせていただきますね」


 レイチェルがお金をしまうと、二人で夕食の席に着く。


 こうして、登校初日の夜が更けていくのだった。

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