第4話 編入

 クラスが変わって初めての登校日。寮を出ようとする俺にレイチェルが見送りに出た。


「突然別のクラスに編入され、さぞお辛いかと思いますが、レイチェルはどんな時も坊ちゃまの味方です。何かあれば必ず相談してくださいね?」


「ありがと。でも大丈夫」


 クラスが変わるといっても、そこは一応同じ学校。


 いじめのような深刻な問題が起きるとは考えにくい。


 せいぜい、決闘で負けた惨めな男が見世物にされ、俺のプライドがズタズタに傷つくくらいだ。


 ……………………。


『なんだ、お前。泣いているのか?』


「な、泣いてない。朝からいい運動をして、少し汗をかいただけだよ」


 ベリアルのスキル<超重領域>で鉛のように重くなった全身を引きずって、学園に向かうのだった。




 ◇




「今日からFクラスでお世話になります。エイルです。よろしくお願いします」


 新しいクラスメイトたちに軽く挨拶をする。


 案の定、クラスメイトから好奇の視線が突き刺さった。


 そりゃそうだよな。


 家の都合とはいえ、こんな時期に別のクラスから一人クラス替えなんて、そうそうあるもんじゃない。


 まして決闘に敗れて家名に泥を塗ったなどという懲罰的な移動となればなおさらだ。


「エイルくんの席はあそこになりますね」


 担任に指された席に向かうと、そこには見覚えのあるがいた。


『惨めなもんだなァ』


「ちょっ、なんでついてきてるんだよ!」


『オレ様がどこにいようが、オレ様の勝手だろ』


「いや、お前魔剣なんだぞ!? 見つかったらどんな目にあうか……」


 現在、うちの国の国教であるレムリア教では、魔王や魔族を悪と断じ、排斥する動きがある。


 そんな中で魔族の力を持つとされる剣――すなわち魔剣があるということは、それだけでどんな目で見られるか、火を見るより明らかであった。


 そのため、学園に来て早々ロッカーに隠していたのだが、いつの間にか抜け出していたらしい。


 ……というか、自分で移動できたのかよ、コイツ。


 辺りの様子を伺いながら、小声で語り掛ける。


「編入初日で、ただでさえクラスに馴染めるか不安なんだ。頼むから余計なことはするなよ」


『ハッ、人間の都合なんざ知ったことか』


 コイツ……。


『それに、オレ様がいなきゃ<超重領域>が発動できない。……お前言ったよな? 日常の中で鍛えるって』


 ……たしかに言った。


 言ったけど、ここでそれを持ち出すのは反則じゃないか?


「……わかったから。とにかく勝手なことはするなよ」


『ハッ』


 ……ホントにわかってんだろうな。


 とはいえ、現状強くなる方法がベリアル頼みになっていることは否めない。


 癪ではあるが、ここはコイツの機嫌を損ねないようにしないと……。


 と、ふと隣の席から視線が突き刺さった。


貴方あなたずいぶん素敵な剣を持っているようね。……さしずめ、魔剣といったところかしら?」


「んなっ……!」


 いきなりバレてるんだけど!


 ていうか、誰だ、コイツは。


 白銀の髪をサイドに纏めており、どことなく大人びた印象を受ける。整った顔立ちはリズのような可愛い系というよりは、綺麗系に属する部類だろう。


 その一方で、深紅の双眸が値踏みするようにこちらに向けられる。


『ヒーローズオブアーク』にこんなキャラいたっけ……?


 記憶の奥をまさぐるも、それらしいものは出てこない。


 ということは、『ヒーローズオブアーク』に登場していないキャラクターということになるが……。


「私はレティシア。……貴方あなたと同じ、魔剣の所有者よ」

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