第7話『俺と朝餉とパーティと』

 アーサー•イヴァルとアリナ•イヴァル。あの後で話を聞くと、二人はここから割と離れた村から、ギルドに行くため旅に出た兄妹だという。


 目的は俺と同じだ。そのことを伝えたらアリナさんが喜んでいた。いやなぜ? こんなに警戒心が無いのは女の子としていかがなものか。ちゃんと教えたほうがいいですよお兄さん。


 それよりもだ――


「な〜ぜ昨日の今日に出会ったのと食卓を囲んでるのかまったく分からねぇ……」


「いいじゃないか。知らない中じゃないだろう?」


「名前知ってるだけは知り合いって言うんですかぁ?」


 たしかに地元でも村全体が家族という感じではあった記憶がある。

 しかし例えば村に旅人が来たとして、1日や2日泊まってただけの人を仲間として迎え入れる感覚はない。故にこうして共に飯を食っているのは不思議だ。


「うちの村では名前さえ知ってればみんな家族だ。

 それに……失礼ながら手持ちも無いんじゃないかな?」


「うぐっ……それを言われると弱い……」


「だったら良いじゃないか。食事は大人数で一緒の方が楽しいよ」


 そう言ってアーサーという男はパンをかじる。その傍らではアリナさんが食事を楽しんでいる。

 一言も発せずに表情だけでであることを伝えるという非凡な才能を見せたアリナさんを見てすっかり警戒心を抜かれた俺も食事を続行させる。


 ある程度食事も進んだタイミングで、アーサーさんは自らの身の上話に加え、これからの目的について語りだした。


「ところで……さっき僕らはギルドに行くと言ったね」


「言ってましたね」


「そして……昨日僕らの活躍で魔物を討伐した結果、もう今日から馬車が出るようになった」


「ほとんどアーサーさん達のおかげだと思いますよ」


「……いや、それはいいんだ。キミもギルドに行くつもりだったんでしょ?」


 あれ……いつ言った? ここに至るまで俺がギルドに行くことなんて一言も言ってないはず。まさか心が読めるとでも?


「え? 心でも読めるんです?」


「違うよ、キミの荷物に車継状があったからね。ほら、僕らも似たようなもの貰ったんだよ。行き先も同じさ」


「だからってギルドに行くとは限らないじゃないすか」


「ギルドに興味のない人がわざわざ魔物が集まる場所に行って、しかも何体も魔物を倒すなんてことしないよ。危険が多すぎる」


「……よく見てますね」


 ここまで理詰めでいかれたら終わりだ。俺は正直にここまでの経緯と、これからやろうとしたことを話す。

 とある理由で所属していた自警団を追われたこと、それは身に覚えがないこと、吹っ切れて冒険者になろうとしたことまで全て話した。


 正直、そこまで時間を共にしていない相手にここまで話すのは本来憚られることである。

 これはひとえにアーサーさんの人懐こさにある。懐に潜り込めるだけの話術と、視野の広さからくる分析力が人並み以上だ。


 それに俺は――もしかすると誰か頼れる人が欲しかったのかもしれない。


「……じゃあ、とりあえずギルドまで一緒には行きます。そっからは俺に選ばせてください」


「ありがとう。頼むよ」


 そう言ってアーサーさんと握手をする。それと同時にアリナさんの食事も終わり、アーサーさんが財布を準備しだした。

 ありがたく御馳走になり、俺たちは車継状が指す馬車駅へ向かうのだった。

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