第8話「王都とギルドと俺たちと」

 車継状は貴重な証書だ。これ一枚で目的地の方角へ向かう馬車に無料で乗ることが出来る。


 ガタガタと馬車に揺られているのは俺とアリナさんの二人。アーサーさんは馬車引きのおっさんと話しているので、客車の中は俺たち二人しかいなかった。


「アリナさんはなぜギルドにいこうと?」


「兄様が行くというので……。昔から怪我の多かった兄様ですから心配で心配で」


「あ〜、でもあれだけ強ければそんな心配ないんじゃないです?」


 実際に戦う姿を見た訳ではないが強いことは分かる。なにせ朝食からこの馬車に乗り込むまでに、何人にも感謝の旨を伝えられていたからだ。

 

「兄様はたしかに強いです。私達の村では多分……兄様に勝てる人は居ないくらい」


「なら……」


「だからこそ、兄様はいつか大きな怪我をしそうで怖いんです。これまで負けたことがないから」


 そう言ったアリナさんの表情はさっきまでのほわほわした雰囲気ではなかった。

 そこから会話を繋ごうとした瞬間、馬車が止まって体勢を崩される。


「うぉっと」「わぁ」


 俺もアリナさんも地面に手をつき身体を支える。完全に馬車が止まってから幌をずらして外を覗くと、そこにはかつて見たこともない大きな街が見えた。


「お客さん、準備をお願いします。王都ラフコに到着しました」


 ◇  ◇


「ここが……王都」


 正直、クィネスの街を始めて見た時以上の衝撃を受けている。

 メインとなる街道には左右に多くの商店が立ち並んでおり、ひっきりなしに人の声が聞こえてくる。


 人の活気というもののレベルが俺の地元やクィネスの街と比べて何段も上に行っている。それが王都なのだと改めて理解させられた。


「これは……凄すぎるね……」


「どこを見ても活気が溢れてる……お祭りでもこんなに人いないです」


 もちろんアリナさん達もこんな発展した街を見たのは初めてなようで呆気にとられていた。


「……はっ! こんなことしてる場合じゃないですよ! 兄様もしっかりしてください!」


 ポコっという軽い音を立てるように俺とアーサーさんの頭を叩くアリナさん。

 それによって意識を取り戻したアーサーさんは二、三回頭を振るってから言った。


「よし。我々はついにギルドにいこうと思う! 覚悟はいいかぁ〜!?」


「「おー!!」」


 俺とアリナさんの声が混ざり合い、アーサーさんを含めた俺達3人は高く腕を上げた。ついに夢見た冒険者になれる――そう思うと、胸の高鳴りを抑えられなかった。


 ◇  ◇


「うわぁ〜!大っきい〜……」


「これは……凄いなぁ」


「感動的だ……」


 アリナさん、アーサーさん、俺の順で眼の前にそびえる建物に対する感情を述べる。 


 ギルドハウス――冒険者が必ずお世話になるギルドの拠点となる場所。

 これまで見てきた商店もデカかったが、それすらも大幅に超える巨大な邸宅、あるいは城のような印象を抱かせる。

 多くは石造りでありいたるところに細工もしてある。さらには夜でも明るくするために大きめのランプが狭い感覚で設けられている。これだけで文明レベルの差というのが伝わってくる。


重厚なドアを押し開くと、中には多くの人がそれぞれの目的で動いているのがわかる。

 

 広々とした空間にはいたるところに机と椅子が配置されており、休憩所のように利用している人影が見える。

 奥の方には受付らしきカウンターが置かれていて、多くの人がそこで紙を受け取っている。


「おうお前さん等、ここらじゃ見ない顔だな」


 野太い声に反応して、俺達3人の視線が声の方へ向けられる。


「ど、どうも……」


 俺が咄嗟に話しかけると、その野太い声の持ち主は笑顔を浮かべる。

 

「見たところ新人ルーキーだな? あんまりキョロキョロしとると性根腐った奴らのいいカモだぜ?」


 体格に見合った豪快な笑い声混じりにそんな冗談を吐く男に対して俺は愛想笑いをする。

 それと同時にアーサーさんが俺の肩を弱めに叩き、この男との会話を譲るように合図を出した。


「ご忠告ありがとうございます。田舎から出てきまして何も分からなくて」


「なんだい兄ちゃん達、まだ登録もしてないのか?」


「ええ。ついさっきこの街に着いたところなんですよ」


「はぁ〜なるほどな。すると兄ちゃん等はみんな身内なのか?」


「兄弟です」


(あの、アーサーさん? 俺は他人ですよ?)


 そんな言葉が頭によぎったがここでそれを言っても話がとっ散らかるだけだからぐっと堪えた。アリナさんも別に困ってるわけではなさそうだし。


「登録もしてねえんなら教えてやる。ついてきな」


 そう言って男の後ろをついていく俺達。数人が並ぶ列の最後尾に誘われ、数分後には受付をしている女性の前についた。


 俺達をここまで案内してきた男は、受付の女性に親しげに話しかける。

 

「よ、さっきぶり」


「バンダさん! また依頼をご希望ですか?」


「いや今回は違う。この新人さんたちの登録をお願いしたくてよ」


 バンダと呼ばれた男の紹介で、受付の女性がニッコリと笑顔を向ける。テキパキと手際よく何枚かの書類を用意していた。


 「それでは登録ということで手続きいたします。こちらへどうぞ」


 片手で行き先を指しながらついてくるように言う受付の女性。勿論、俺達はその後にぞろぞろとついていくことにした。

 ひらひらと手を振るバンダ氏は満足げに笑っていた。


 


 

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