第5話

          メール

今、何してますか?

カーテンを開けて覗く満月にそっと尋ねてみました

「今日は綺麗な満月だよ。

 あなたに教えてあげたいなぁ」

勇気を出して連絡先を交換した放課後

友達なら気軽に聞ける連絡先も

あなたの低めの声から聞く連絡先は

一文字、一文字、特別な言葉

だから聞く時、緊張して

スマホを持つ手が小さく震えていました

あなたを想う気持ちを隠していたから

いつもよりはしゃいだ態度をとりました

「いつも元気だよな」

そうわらっていたあなただったけど

違うんだよ

本当の私はとっても泣き虫で臆病なんです

あなたの1つ、1つ、に喜んで泣くんです

「気付かれたかな…」

変な態度をとってごめんなさい

でも本当の私を知って欲しい…

私の知らないあなたが知りたい…

何度もメールを書き直し、送ろうと思っても

送信ボタンがタップできません

やっぱり指先が震えて押せません…

ずっと押せない送信ボタン

あなたの事になると

とたんに弱虫になる自分が嫌いです

満月の事教えたいのに

他の事もいっぱい話したいのに

スマホを握りしめたまま

時間だけが過ぎていく

はがゆくて、もどかしくて、涙が頬を伝います

やっと聞いた連絡先は

あなただけの大切なグループに登録したのになぁ…

あなたへの想いは

誰にも負けない自信があるのに

あなたにメールを送る勇気がありません

迷う指先に想いは募るばかりです

『綺麗な満月だよ』

そんな時、あなたからのメールが届きました

あなたも同じ満月を見ていたんですね




          写真

生まれる前からお隣さんで

小さい頃から写真の私の隣にはアイツが並んでる

あたしの方が2年も早く生まれてさ

アイツが生まれた時

弟ができたって誰より喜んだんだって

覚えてないけどね

物心ついた時には

アイツはあたしの大事な弟だった

小さいから意地悪されて

いつも泣いてたアイツをなだめ

イジメた相手をぶん殴って守ってた

アイツも泣きながら金魚のフンみたいに

あたしの後ろをついて回ってたっけ

だからあたしは

大事な弟をずっと守ろうと決めた

守ってきたんだ

アイツを泣かせる悪いモノから守ってやると

心の中で誓ったからね

えくぼの可愛い笑顔を見るのが嬉しかったから

それなのに

男の子と間違われる位

短かった髪が肩まで伸びた頃には

アイツはいつしか泣かなくなった

いつも隣に並んで一緒に撮った写真も

だんだん少なくなって

撮らなくなった 

いつの間にかあたしより背が伸びて

声も低くなっちゃってさ

それでも

あたしの中ではいつまでも大事な弟だったのに…

この間、久しぶりに並んで歩いた時

そっと車道から内側へ引っ張ってくれたよね

掴んだ手が大きくて

ゴツゴツしたのに変わってた

見上げた横顔が

あたしの知らない『男の子』になっていて

心の中がざわついた

あたしの知ってる大事な弟が

守ると決めた可愛い笑顔が

知らない『男の子』になっちゃった…

それからあたしの中の弟が『男の子』になっていき

気付けば

アイツの事ばかり考える自分に驚いたよ

どうしちゃったんだろ、あたし…?

子供の頃の写真を手にとって

ふいに思っちゃったんだよねぇ

アイツも立派な『男の子』なんだなぁって

気付きたくなかったな…

























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