第3話

          背伸び

洋服もメイクも いろんな雑誌を読み漁って

精一杯努力した

バイト代全部使って ハイヒールも買ったんだよ

ハイヒールが欲しくて 一生懸命バイトを頑張った

会う時はいつも大人びた格好とメイクでお洒落する

それなのに

「似合わない」

憮然とした態度で あなたは一言

ショックで持ってたバッグを投げつけ走り去った

だって

私は『少女』としてじゃなくて

あなたと並んでもおかしくない

『女性』になりたかったの


ずいぶん走ったけど、慣れないハイヒールで

酷い靴擦れ

歩道橋の階段に座り込んだ途端

涙が出てきた


あなたな隣りが似合う『女性』に

早くなりたかったのに

洋服もメイクも全部

あなたの為に頑張って、努力したのに

あなたの一言て

あえなく玉砕


悲しくて、悔しくて…

それでもあなたが大好きで

ポタポタ落ちてくる涙が止まらない


泣きじゃくってる私の頭を

優しく誰かが軽くこづいた

振り向くと

投げつけたバッグを持って

息を切らしたあなた


あなたは私の瞳を見つめて、こう言った

「急いで大人になろうとするなよ。ただでさえ

 女の子ってヤツはすぐ大人になるんだから」


私を抱きしめる


その日から


私は大人びた洋服を着るのも

メイクをするのもやめた






         くしゃみ

始業式をこっそり2人て抜け出して

桜がもうすぐ満開になる公園を通り抜け

自転車2人乗りしながら

海に行ったよね

自転車に乗ってる時、後ろで君の肩を

『大きいなぁ』って思いながら掴んでた


春になったばかりの海はやっぱりまだ冷たくて

入るのをためらうあたしな横で

君が子供みたいにはしゃぐから

思わず「ぷっ」と吹き出しちゃった


あたしが止めるのも聞かずに

靴と靴下脱いで、サブサブ海に入ってさ

あまりの冷たさに、海の中で転んで

全身びしょ濡れになった君の姿が

可愛くて、ずっと笑い転げてた


あたしの知ってる君は

いっつも穏やかに笑う人だったから

こんなに子供の様な笑顔もするんだなって思ったら

急に心臓がバクバクいうこときかなくなっちゃった


君がいろんな顔を見せてくれるから

覚えるのに忙しい


買ったばかりのカメラ持ってくれば良かったなぁ…

そしたら最初の写真は君なのに


ちょっと考えてたあたしに、君が海水かけるから

おかけであたしも全身びしょ濡れだ


お返しに君にも海水かけてやれ


2人で波と遊んでると、桜の花びらと一緒に

風が吹いてきて

濡れた身体を触ってく


「へっくしゅ!」「くしゅんっ!」


君と同時にくしゃみして

お互いの顔見て、同時に指さし合って笑ったね


今度は夏の海にまた2人で来ようよ

それまでカメラはお預けだ


やっぱり最初の写真は君がいい


そう決めたから

ちゃんと今の笑顔をキープしといてね


「へっくしゅ!」「くしゅんっ!」


また同時にくしゃみして

どうやらお互い風邪を引いたみたいだ


でも君と一緒に引いた風邪なら悪くない

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