うちの末っ子
蘭野 裕
うちの末っ子
「お前、顔が良いと得だよな。壊されなくて済んだのが不幸中の幸いだ。どんどん食え。石になってる間、飲まず食わずで辛かっただろう」
「腹は減りませんでしたが、退屈で気が狂いそうでしたよ」
行きつけの酒場で、弟の回復を祝う。
兄貴と話す様子を見て心から安堵した。
かつて俺たち兄弟はダンジョンの奥にある魔女三姉妹の住処に踏み行った。
こちらも一人を倒したが、石化の呪いをかけられた弟を腸がちぎれる思いで置いて逃げ延びた。
あれから幾分強くなり、兄貴と仲間を募って弟を救出した。
今日は晴れて、寺院の司祭に呪いを解いてもらったところだ。
「玉子をもう一ついいですか」
「おう。肉も食えよ」
石化された冒険者は壊されて死亡することが多い。
そのばあい破片を集めて、寺院に死亡からの復活を依頼しなくてはならない。失敗すれば灰になるおそれがあり、破片が足りなければ危険性が跳ね上がる。
それに俺たちはどこかでもう一稼ぎしなければ費用を賄えなかっただろう。
あの程度で済んで本当に良かった。
「なあお前、やけに口数が少ないじゃないか。酒も進まないな。今日はおれの奢りだ。遠慮するな」
会計のときまで覚えていれば、ね。
俺たちは弟の石像を回収するとき、二人の魔女と戦わねばならなかった。倒したはずが、手下に追われて命からがら脱出した。
そう、脱出。
魔法で出たかったが俺もふくめて魔法を使える者はみな戦闘で魔力を使い果たしてしまった。力持ちの傭兵と協力して弟の石像を運び出したのだ。
その時のことだ。
いつからあったのか知らないが。
弟の首にひびが入っており、頭がとれてしまったのを大慌てで回収した。
兄貴はどうやら気づかなかったらしい。
寺院の祭壇に横にしたとき、弟の頭とその他を寸分の狂いもなくピッタリ合わせ、ずれないように支えるのに必死だった。
皆の頑張りと寺院の司祭のおかげで、弟はすっかり元気になったように見える。
では、石像となって首がとれていたとき、どう感じていたのだろう?
気になって仕方ないが、反応が恐ろしくて訊けずにいる。
(了)
うちの末っ子 蘭野 裕 @yuu_caprice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます