第6話

 俺も驚いたが、それはソラもだった。


「「!!!」」


 俺とソラは触れていた唇を離す。


 そして、お互いに体を確認した。


「元に戻っているな……」と俺が言うと「そうね」とソラが返す。


 キスで目覚める、なんて童話が聞いたことがあるが、キスで体が元に戻るなんてなぁ…………


 体は元に戻った。

 だけど、元に戻らないこともある。


「全部が元通り、とは出来ないからな。というか、したくない」


 俺はかなりドキドキしながら、ソラに向かって手を出した。


「うん……」と言いながら、ソラは俺の手を握る。




 今日、俺たちは恋人になった。




「そういえば、今日、私の家、親がいないの」


 ソラが手をギュッとしながら、言う。


「そうなんだ。じゃあ、飯を作りに行くよ」


 ソラはあまり料理が得意じゃない。

 だから、ソラの両親がいない時は俺が作りに行くことがある。


「いや、そうじゃなくて、恋人になったのよ?」


 ソラは不満そうだった。


 最初は意味が分からなかったが、顔を赤くするソラを見て、俺は答えに辿り着く。


「破廉恥な奴……」


「なんでよ!?」


「えっと、恋人になって、すぐにそういうことはするのは違うと思う」


 俺は〝そういうこと〟と濁した言い方をする。

 

 それでも、ソラは理解したようで

「えっ、そうなの? だって、漫画だと恋人になって、三ページ後には裸になっていたわよ」


「…………ソラ、成年漫画と現実を一緒にするなよ」


「せ、成年漫画じゃないわ! 少女漫画よ!」


 最近の少女漫画はそんなに過激なのかよ。


「とにかく、夕食は作りに行くよ。それ以上のことはとりあえず無し。少なくても卒業するまではね」


「高校生の内は健全なお付き合いってこと? 体育会系なのに真面目なのね」


「体育会系にどんなイメージはあるんだよ。肉食系文学部」


「肉食系じゃないわよ!」


「いやいや、恋人になって、即誘うのは肉食系だろ」


「~~~~~」


 ソラはポカポカと俺を殴る。

 その痛くない打撃を俺は笑いながら受けた。


 結局、俺はソラと二人で夕食を食べてから、帰宅する。


 色々とあって疲れたし、寝たいのに色々と考えると寝れない。

 普通じゃありえない体験をした。

 それらを思い出していたら、いつの間にか、深夜になっていた。


 そして、心が賢者のようになり、俺はやっと就寝できた。



 ――翌日。


「どうしたんだ?」


 今日もソラと一緒に学校に登校したのだが、どうもソラの歩き方がぎこちない。


「大地のせいよ……!」


 ソラは涙目だった。


 俺のせい?

 心当たりがない。


「大地が昨日、激しく動いたせいで全身が筋肉痛なのよ!」


「ああ、そういうことか」


 朝は全力で走ったし、体育の時は全力でバットを振ったからな。

 運動不足のソラの身体には負担があり過ぎた。


「女の子の身体はもっと優しく扱ってよ!」


「加減が分からなかったんだよ」


 俺たちがこんな会話をしていると視線を感じた。


 ここは学校の校門付近だ。


 俺とソラを見て、みんながヒソヒソと話をしている。


「あの~~、お二人さん、そういう話は時と場合を考えなよ」


 後ろから天海さんに声をかけられた。

 顔が真っ赤だ。

 

 どうして?


「こんなところでピロトークなんてさ……」


「「…………あっ!」」


 俺とソラの声が重なる。


「違うんだ、天海さん!」

「違うの、瑠璃!」


「ついに付き合い始めて、昨日〝合体〟をしたんじゃないの?」


「確かにさっきの会話はそういう風に聞こえるかもしれないけど、違うんだ!」

と俺が言う。


「じゃあ、まだ付き合い始めていないの?」


「えっと昨日、恋人にはなった……」


 ソラがボソッと言う。

 なんで朝の校門で恋人宣言をしちゃんだよ……


 凄い注目されているぞ。


「あっ……」


 その中に安達もいた。


 安達が俺のことを好きだと知ってしまったので気まずい……


「そうなんだ。おめでとう、大地」


 安達は振り向いて校門から出て行く。


「おい、安達、どこに行くんだ!?」


「外周、行ってくる!」


 安達はそう言い残して、走りに行ってしまった。


 …………って、今から外周を走って来る時間なんてないぞ!


「あはは、澪のことは私に任せて~~。北条君、足利さん、おめでとう。お幸せにね」


 渡辺さんがそう言い残して、安達を追いかけていく。


 振り返るとソラが天海さんから質問攻めにあっていた。


 校門でこんなに騒いだら、学校中に知られるだろうなぁ。


 残り少ない高校生活、凄く慌ただしくなりそうだ。


「大地、瑠璃になんかいい感じに説明してよ!」


 ソラが俺に泣きついてきた。


 まぁ、騒がしいけど、楽しいことも間違いないかな。

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