第5話 放課後、例の神社
――放課後。
俺たちは朝の神社で今後のことを話すことにした。
「ちょっと、大地! 安達さんって、いつもあなたにあんな感じなの!?」
神社に到着した直後、ソラは安達さんのことを話題に出す。
「あんな感じって、どんな感じだよ?」
「なんか、大地と話すのが凄く嬉しそうだったわ。なんていうかしら……そう、メスの顔!」
おい。
「お前はすぐに安達に謝ってこい。それにしても安達が俺のことを……その……好きだって、初めて知ったよ」
「ふ~~ん、そうなんだ」
俺が言うとソラは途端に不機嫌になった。
理由は分かっている。
「結構、安達さん、好き好きアピールしていたみたいだけど、気付かなかったの?」
「今日、天海さん経由で教えてもらうまで気付かなかった。今まで意識していなかった。確かに距離間は近かったけど、同じ運動部だし、そういうノリなんだと思っていたよ」
「鈍感ね……んっ? 瑠璃?」
ソラは俺が天海さんの名前を出したら、何かを思い出して、サーッと血の気が引いていた。
「大地、瑠璃は他に誰かが大地を好きだって言っていたかしら?」
ソラは恐る恐る、俺に尋ねる。
「…………言ってなかった」
俺は思わず、視線を逸らしてしまった。
「嘘だ! 大地が嘘を言う時はいつだって、視線を逸らすから分かるわよ!」
すぐにバレてしまった。
「ねぇ、瑠璃は誰が大地のことを好きだって言っていたの!?」
ソラは俺に詰め寄って来た。
てか、この詰め方、もう気付いているだろ!
「………………ソラが、俺のことを好きだ、って聞いた」
俺は観念して自白した。
「…………そう」
もっと騒ぐと思ったけど、ソラは落ち着いていた。
徐に神社の柱の強度を確認し始めた。
「うん、大丈夫そう。大地、ロープって持ってる?」
「いや、ないよ。何に使うつもり?」
「もちろん、首を吊るんだよ」
「!?」
「しょうがない。神社の境内を探そうかな」
ちょっと待って!
「いきなりどうしたんだよ!?」
「死ぬんだぁ……」
「えっ?」
「私が大地のことを好きだってことをこんな形で知られて、もう生きていけない!」
全然、冷静じゃなかったーー。
かなり思いつめていた。
「落ち着け! お前、今、俺の身体! 俺が戻れなくなるだろ!」
「大地は私のことなんてどうだって良いんだ! 私の身体、目当てなんだ!」
おい、変な言い方はしないでくれ!
「俺がお前に死んでほしいはずないだろ! お前は俺の幼馴染で、初めての友達で……」
「うん、私にとっても幼馴染で、初めての友達だった。それで初恋で……でも、こんなこと言われても迷惑でしょ?」
少しだけ冷静さを取り戻したソラが泣きそうになりながら言う。
多分、「そんなことない」とか「気にしないよ」とかっていう言葉じゃ、この状況を好転させられないだろう。
それにこれから先、俺とソラの男女逆転が元に戻った時、関係が修繕できる気がしない。
イレギュラーなこととはいえ、ソラの本心だけ知るのはフェアじゃないと思った。
「ソラ、俺も素直な気持ちを伝えるよ」
「な、なによ? …………もしかして、絶交宣言?」
ソラは絶望しているようだった。
「違う。…………俺もさ、ソラのことが好きだ」
でも、俺がそう告げるとソラは目を丸くして驚く。
そして、にやけそうになる表情を必死に抑えているのが分かった。
ソラは大きく深呼吸をし、俺を真っ直ぐに見る。
「…………それって〝like〟じゃなくて〝love〟ってこと?」
「もちろんだ」
「同情して言っているだけじゃないの?」
「えっ?」
「だって、今日、大地の友達の田口君とか谷君と話をしたけど、私のことはただの幼馴染としてしか認識していなかったよ?」
田口も谷も元野球部のチームメイトだ。
仲も良い。
だけど、言うわけないじゃん。
「言えば、広まるだろ。もしそんなことになって、ソラと疎遠になるのが怖かった。今だって、高校ではほとんど話さないのに……」
学校で話さなくなったのは、中学時代に周りから「カップル」とか「夫婦」とか言われたからだ。
言っていた奴らに悪気はないかもしれないが、中学生の俺とソラはそれが嫌だった。
だから、学校ではあまり話さないようになった。
「もう一回言う。俺だって……その……ソラが好きだった……」
言っていて、顔が熱くなる。
「じゃあ、証明して」とソラが言う。
「どうやって?」
「私のことが好きなら……その……キス、出来るでしょ?」
ソラは視線を逸らしながら言う。
「でも、俺は今、お前の身体なんだぞ?」
「それを言ったら、私は大地の身体だよ。でも、お互いに好きで……恋人になるなら関係ないよね……!」
関係なのか?
それにしても恋人……その単語を聞くと体が熱くなる。
「いいよ、だけど、今の俺じゃ、ソラの方が背が高いからキスできない。ソラからしてくれ。あと、自分の顔がキスをしてくるのは嫌だから目を瞑るから」
俺は出来るだけ背を伸ばして、目を瞑った。
「こういうのって男からじゃないのかしら?」
「今はソラが男だろ」
「ズルい……」
「しないのか?」
「…………する」
ソラの言葉を最後にお互いに無言になった。
そして、ソラが俺の両肩を優しく掴む。
あっ、今、目前にソラ(まぁ、顔は俺だけど)がいるな、と思った次の瞬間、唇が触れた。
その瞬間、雷が落ちたような感覚、というか本当に雷が落ちたらしい轟音がした。
それは今日の朝と同じだ。
びっくりして目を開けると目前のあったのはソラの顔だった。
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