第2話 狂行

僕は、一時的な失語症になっているらしい。

表情筋が、このひと月でだいぶ衰えている。

まあ、身体中がボロボロでやせ細っている。

目覚めた後、楓姉妹から起こったことを聞いた。

僕には、あの日を含めた数日間の記憶がすっぽり抜け落ちていた。


僕、朔良 慎弥は幼い頃から仲良くしてもらっている双子姉妹 楓 奏と雫に朝食を作ってもらっていた。

僕の両親は、一人息子を隣家の楓家に世話を頼み海外赴任している。

生まれた頃から一緒だ。

というよりも「おにぃ」と呼ばれているが実は同い年である。

ただ、生まれた時間が数分早かっただけ。

僕らは、同じ日に生を受け、兄妹のように過ごしてきた。

だから、誕生日も同じだ。

さて、問題があったその日は僕らの17回目の誕生日の日の事だった。

つまり、僕は誕生日に病院に担ぎ込まれたことになる。

季節は、晩秋。

夏の残暑もやっと終わった11月18日。

僕らの誕生日の1週間前。

その日は、久し振りにバイトも休みで朝から奏と雫を連れ立ってショッピングモールへと来ていた。

そこで、すっごいガラの悪い人たちに二人がナンパされ、それを撃退したことが僕の運命を変えることになった。

ただ、僕にはその時の記憶がないので彼女たちの話の内容でしか状景を思い出せない。

僕は、一応空手部に籍を置いている。

その為、一応は腕には自信がある。

なぜ、執拗に一応というかというと僕は喧嘩が好きではない。

好きな奴の気が知れない。

その時の僕は、捌きで相手の攻撃を弾き続けただけだったようだ。

それで、「覚えてやがれ」と捨て台詞を吐いて逃げたとのことだった。

そして、その「覚えてやがれ」が現実になったらしい。


11月25日。

僕は、学校のグラウンドで倒れているのを発見された。

頭には裂傷、打撲。

両手、両足は複雑骨折。

腹部には、数か所の刺傷。

あと少し救急車の到着が遅ければ僕は助からなかったのだろう。

傷は癒えていくのに、このひと月僕の意識は目覚めなかった。

二人は、毎日お見舞いに来てくれていたらしい。

彼女たちに、「ごめんなさい」と言われても「ごめんじゃないよ、二人が無事でよかった」と言いたいのにまだなかなか声が出ない。

「ス・・・マ・・・ホ」

僕は、スマホがあればメッセージが送れることに気づいた。

雫・・・赤みのかかった茶髪で肩先くらいの長さの髪で150cmと小柄がサイドテーブルに乗っていたスマホを渡してくれた。

僕らのグループに、メッセージを打つ。

『ごめんじゃないよ、二人が無事でよかった』

二人は、自分のスマホを見る。

『今は、上手く声が出ないけど。ここで言わせてね。ただいま』

「「お帰りなさい」」と涙で美人が台無しになった二人に抱きしめられた。

僕は、二人の頭を両手で撫でる。

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