朔良 慎弥の受難 -双子姉妹と過ごす日常-

天風 繋

第1話 生還

真っ白な天井。

知らない天井だな。

頭がぐらぐらする。

なぜだろう。

僕・・・俺・・・ん?私?あれ?わからない。

消毒液の匂いが鼻腔をくすぐる。

たぶん、ここは病院か。

両腕が重い。

視線を天井から周囲にずらす。

真っ白なシーツが目に入る。

頭が、少しクリアになって来る。

「あ・・・ああ・・・・あ・・・」

ん?声がうまく出ない。

すごく喉が渇いてる。

眼鏡・・・どこだろう。

うまく、見えないや。

あれ?ベッドの両端になにかある。

だから、両腕が上がらなかったのか。

僕・・・ああ、僕だった。

僕は、どうして病院に。

目を細める。

ああ、少しだけよく見える。

でも、眼鏡がないとうまく見れないな。

赤みのかかった茶色と青みかかった茶色。

なんだろう、これ。

足は・・・動く。

あれ?でもあんまり力が入らないな。

僕は、もそもそベッドの上から動こうとする。

でも、うまくいかない。

それと同時に、左右の茶色い物体が動き出す。

「「ああ」」と茶色の物体・・・女の子が声を漏らした。

そして、僕に抱き着いてくる。

「「おにぃ」」と二人は言った。

僕を「おにぃ」と呼ぶのは、うちの隣に住む楓家の双子だけだ。

「か・・かな・・・で、し・・・ら・・・べ?」

「「そうだよ、おにぃ」」

二人は、シンクロするようにしゃべる。

記憶が、上手く繋がらない。

「おにぃ、よかった。

ずっと目を覚まさないからもう会えないのかと思った」

「おにぃ、ゆっくりでよ。

1月も意識戻らなかったんだから。よかった」

二人は、ぼろぼろ涙を流している。

朧げにしか見ることができない視界だが二人の姿はよく見える。

視覚ではなく、心で見ているのかも。と思ってしまった。

僕、朔良 慎弥は死地から戻って来た。

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