第40話 我が名は……①

「……―――カッ!カアーカーーカア!!」

「ウーニャーニャーー」


……――んむっ?


騒がしさで目が覚めた。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


懐かしい夢を見ていたような気がするけれど、残念ながら内容は覚えていない。

夢ってそんなものなのだけど、私にとってとても大切なことだった気がする。気がするのだけれど――――


「ウニャニャニャーーニャ!!」

(ちょっとぐらいハスハスしても良いじゃないか!!)


「カーカアカーカーーカー!」

(アンタのは変態行為っていうのよ!)


「ニ゛ャーーン!!」

(ガーーン!!)


「カーー!カーカー!カカーカア!!」

(シッシッ!この変態!ひなたからもっと離れなさい!!)


「ウニャニャ……ニャニャニャー……」

(酷い……優しさと温もりが欲しいだけなのに……)


「カーカー」

(はいはい)


「ニ゛ャーーン!!」

(ガーーン!!)



…………まあ、良いか。

そもそも覚えていないことを思い出そうとするのは無理だ。


今日も私の周りは平和で何より!


身体を起こして両手を上げ、んーと大きく伸びをすると、カーコが私の方を振り向いた。



「カア、カカーカァ」

(あら、起きたのね)


「うん。おはよう……で良いのかな?久し振りにぐっすり眠った気がする」


「カーカアカー。カーカーカーカア」

(もう昼過ぎよ。幽霊も眠るのね)


「あはは。私も起きて驚いた。初めてのことだから分かんないけど、夢も見てた気がする」


「カーー、カカーカー」

(へえー、夢も見るのね) 


「内容は全く覚えていないけどね」


苦笑いをしながら周囲を見渡してみたが、カンザブロウとカースケの姿が見当たらない。

屋根の上にいるのは、私とカーコとクロちゃんだけだ。


「カンザブロウとカースケは?」


「カーー……」

(あー……)


何気なく尋ねると、カーコの顔が苦虫を噛み潰したようになった。


「その顔は何事ッスか!?」

「………」


思わずカースケのような口調になると、更に苦味が増したような顔になった。

カーコにこんな顔をさせるだなんて、あの二羽は一体何をやらかしたのだろうか。


「………チッ」

「カーコさん!?」


舌打ち!?今、カラスが舌打ちしたよ!?


「…………カア」

(…………たのよ)


「へ?」


「カーカーカカーカカァ!!」

(アイツらは、つがいを見つけたのよ!!)


「……番!?」


番=伴侶である。

カンザブロウとカースケは雄だったから、奥さんができたというわけだ。

急だな!?とは思うけど、野生の生き物はそんなものなのかもしれない。


それにしても、二羽同時なのが気になる。

……合コンですか?それとも婚活パーティー?

機会があれば、是非馴れ初めを聞いてみたいものだ。


カラスは一夫一妻制で、生涯を一生共にするのだと聞いたことがある。

つまり、あの二羽は将来を共にする相手と巡り会えたというわけだ。


うんうん。良きかな。良きかな。


今後は自分達の愛の巣が縄張りとなるので、ここにはもう来れなくなるだろう。

少し寂しいけれど、二羽が幸せならばそれで良い。

のことは忘れて幸せに――って……。


「因みに、カーコに番は?」


「カーカーカ?」

(コ◯スすわよ?)


……わーお。

とーーっても良い笑顔を返されました!!


「何でもありませーーん!!」

私は咄嗟に両目を両手で隠した。


【デリケートな話題は慎重に】

私はそう固く心に誓ったのだった。まる。



……そういえば。

カーコと戯れていたクロちゃんが、先ほどから一言も発していないことにふと気付いた。


眠っちゃった?

それともどこかに――――え?


先ほどまでクロちゃんが居た所を見ると、クロちゃんはその場から一歩も動かずに、静かに私を見つめていた。


その瞳を見つめ返した瞬間に、ドキッとした。


ときめいたとかそういうのではなくて、まるで真っ直ぐな瞳に、止まっているはずの心臓を突き動かされた。――そんな気分だった。


……この気持ちは何だろう。

私は

そんな確信があった。


「……クロちゃん?」


恐る恐る尋ねると、クロちゃんは私を見つめたまま口を開いた。


「ひなた」


すると、クロちゃんの口から聞こえてきたのは、いつもの猫語ではなく――人間の言葉だった。

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