第30話 今後の方針

「先生、元気だったか?」

「ん、相変わらずだった」

「それは何より――」

「今度は朔夜と二人で話したいって」

「…………は?マジ?先生忙しいじゃん」

「朔夜のためなら時間作るって」

「嘘だろ………」

「嘘じゃない。あと、送るから、もっと攻めた検証をしても良いよって」


ピクピクと顔を引き攣らせていた朔夜くんは、【新しい御守り】と聞くなり、『仕返しかよ』と呟きながら、苦虫を噛み潰したような顔になった。



「……………はあーー。どんな御守りが届くかは分かんねえけど、正直助かる」


深い深い溜め息を吐いた朔夜くんは、持っていたスマホに目線を落とすと、スクロールし始めた。


「あのさ」

「ん」

「俺、今までずっとコタローや先生に、守られて甘えてたけど、そろそろ身体張る時期かなーと思う」

「……朔夜?それは違う」

「『逃げすぎ』、『ビビってんの?』、『つまんない』、『心霊系を名乗るならもっと身体張れ』」

「それって、最近のコメ?」

「そ。――コタローも読んだと思うけど、正論すぎてヤバいよな」

「……」


朔夜くんが苦笑いをすると、コタローくんは眉間にシワを寄せた。


「だからさ、暫く俺の一人検証をメインにさせて欲しいんだわ」


スマホの画面からコタローくんへと、視線を向けた朔夜くんの瞳には、揺るがない強い決意が籠もっているように見えた。

双子であるコタローくんが気付かないはずはなく、複雑そうな顔をしている。



そもそも、二人の動画は、であることが大前提である。


何故ならば、コタローくんは霊が視えるけれど、祓うことはできない。――否。小物ならば対処法を心得ている

が、本当にヤバいモノは、自分ではどうすることもできないと分かっているからだ。


常に近くに、先生の御守りを携帯している理由がそれだ。


自らの力量を理解しているからこそ、過信することなく、安全牌を取る。

生命あっての物種。身体が資本。

収入は大事だが、私のように死んでしまったらお終いなのだ。

朔夜くんもコタローくんもそれが分かっているから、安全第一にしているのだ。当然のことだと思う。



『つまんない』って言葉を簡単に使うな。

ビビって悪いか。 逃げて何が悪い。


『身体を張れ』と言うことは、と言っているのと同じことだ。


そんなことをのたまう奴には、私が取り憑いてやろうか?


私は公私を弁えた節度のある安全な幽霊なので、本来ならば絶対にやらないが、殺……やるなら徹底的に殺……やるぞ☆


まず、対象者が起きている間は、ずーっとヘッドロックし続けるでしょ〜?

ギリギリギリギリ。『早く体調に不調が出ますように』って、笑顔で呪いながら〜♪


私の怨念のせいで他の悪霊が寄って来たら〜。

うん♪身体の中に押し込んであげよう☆

仲間GETだぜぃ!!

何体入るか楽しみだよねぇ〜!


取り憑かれてるのを知らしめることも忘れない!!


対象者が鏡を見る時には、ほんの一瞬だけ映るんだ♪

お風呂とかは覗きたくないから〜、髪の毛だけ伸ばして、隙間から見せようかなぁ?

一瞬だけ浴槽にうつ伏せに浮かんで見せるのもイイね!


寝てる時だって、ゆ・る・さ・な・い♪

朝までずーっと呪詛を囁いてあ・げ・る☆


終わりのない悪夢に魘されるが良い。


眠った身体から意識を引っこ抜いて、強制幽体離脱させても良いな。

呆然と自分の身体を見下ろす対象者を横目に見ながら、身体を乗っ取ってやろうか♪


それとも、『幽体離脱〜』ごっこ?

対象者の身体の中に押し込んだ仲間達と一緒に、幽体離脱ごっこをしながら、チュー◯ュートレインをしても面白そうだ。


あ、勿論。簡単にお祓いになんて行かせないぞ☆

仲間達に意識を乗っ取らせて、生かさず殺さずの状態を意地するんだからね!


……そうだなぁ。悔い改めたら止めてあげても良いかなぁ。


解放してあげるよ!

お望み通りにこの世界から!!




――え? 頭のおかしい変態がいる?


私は、安全安心且つ善良な推し活中の幽霊ストーカーです!


窓の外からこっそり中を覗くだけの害のない幽霊ストーカーです!!

……って、私は何で自分で自分のことをストーカー扱いしているんだろう?


違うよ!?

私はこっそり推し活してるだけだからね!?

本来ならやらないって言ったじゃない!!



真面目な話。

動画で収入を得ていると言っても、朔夜くんもコタローくんもフリーランスだ。

仕事にはしているが、会社所属のプロではないし、義務でもない。強制されることでもない。


そんな彼等に『逃げるな。ビビるな。ヤバい奴に取り憑かれてこい』なんて、何目線?視聴者

それ、カスハラじゃないですか?


……まあ、朔夜くんもコタローくんも真面目で優しいから、『自分達が悪い』って思っちゃうんだけどね。


生きている頃は、心ないコメントをした奴によく噛み付いたものだ……………………。(遠い目)




「こんな時、あの人ならどんなコメしてくれるんだろうな」

「朔夜、その人って……」

「ああ、お前が思っている人と一緒だと思う。いっつも律儀にコメくれてたけど、最近全くないよな。……飽きられたのかな」

「あの人に限ってそれはない……と、信じてる」

「だよな。俺も信じてる。今よりもずーっと面白くない時から応援してくれたもんな」

「動画じゃなくてコメ欄が炎上して、バズった」

「あったなw コメ欄でチャット並のガチンコバトルとか普通はしないよな。しかも最後には、アンチが俺らのガチ視聴者ファンになって終わるっていう、謎。あれは、一種の洗脳だったな」

「ん、めっちゃタイピング速かった」

「そうそう。めっちゃ長文でさ。パッと見、どっちがアンチか分からなくなるっていうな。……あの人、どんな人だったんだろ」

「……俺、見たことある」

「マジ!?どうしてだよ!?」

「……教えない」

「おい!コタロー!!?」

「……」

「おーい!!?」




…………はっ!!


遥か遠い思考の世界から帰ってきたら、朔夜くんとコタローくんが仲良く戯れていた。



はう。尊い……(合掌)



「俺の一人検証は決定な!!」

「…………現場までは俺も着いて行くから。それは譲れない」

「分かったよ。ソレで良い」


譲らない姿勢のコタローくんに、朔夜くんは苦笑いをしながら折れたようだった。




――何やら、今後の方針が決まったようです。


まぁ、結果がどうあれ、私はこれからも二人に憑いて行くだけなのです!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る