第30話 ギャンズ、天国へ行く

 ギャンズが目を覚ますと、そこは寝室のベットだった。

 隣の机には水とタオルが置かれている。

 窓から見える景色は絵の具で塗りつぶされた様に青い空が見えていた。

 洋風の装飾に彩られた部屋の内装はローゼスの城よりも豪華さを感じさせる。


「起きたか、ジャルス。スープ作ったぞ」


 ギャンズは、その呼び方を不快に感じ、病室にスープを運んできたジャリルを無視した。


「……ギャンズ、そう呼ばないと駄目か?」

「まだ、あんたを兄とは思えない」

「生まれてすぐ地上に落ちたからな、無理もない」

「……ここは?」

「天界だ」

「天界って……天人の住む場所ですか?」

「ああ、スープ置いておくからな」

「……いらないです」

「食べておけ、飢えは身体に悪いぞ」


 そう言ってジャリルはテーブルにスープを置いて、部屋を去る。

 ギャンズは、スープを見ていた。

 豆を煮込んで作った、白いスープだろう。

 簡単な料理かもしれないが、自分を弟として見ているのだろうと思うとギャンズは不快さを思わせる。

 突然、知らない人間が自分の家族だと伝えられて快く受け入れられる人などこの世にいるのだとすれば、数えるのは人1人で充分であるだろう。

 ギャンズはスープを手に取り、スプーンでスープを掬う。

 スープは日光に当たると、白く光り輝く。

 あの時は要らないと言ってしまったが、このまま飲まれずに冷めてしまうのも仕方ないのだと、自分の中で割り切って、スープを1口飲んだ。


「……美味しい」


 舌に触れたスープは、優しい味がした。



 スープを完食したギャンズは、部屋を出た。

 部屋を出ると、廊下も部屋と同じような装飾が施され、赤いカーペットが敷かれている。窓から見える景色も寝室と変わらない。

 とりあえずこの建物を把握する為に歩き回ってみる。

 通り過ぎるメイド達は皆自分を見て、陰で何かを話している。

 主も羽が生えていないと言うのに、弟ですらこの始末なのかとギャンズは少し呆れた。

 そんな中、1人ギャンズを見て近づいてきた人がいた。

 赤髪のショートヘアで服は白を基調とした軍服なのだろうか、程よい大きさの胸元にはバッジらしき物が付いている。

 顔つきは少し大人びているものの、歳は対して自分と変わらない気がした。


「君が……ジャリルさんの弟君?」

「……違います」


 ギャンズはそのまま通り過ぎようとしたが、彼女はギャンズの手を取った。


「何するんですか!」

「……手にホクロ、あるんだ」

「それが、どうかしましたか」

「ついてるの、ジャリルさんにも」

「他人の空似ですよ」

「空似でもさ、似てるんじゃない?」

「人をからかうのも、いい加減にしてください」


 ギャンズは彼女の手を振り払い、そのまま階段で下へ降りる。


「私、パルス・シルエル。君の名前は?」

「……ギャンズ・マクベル」

「いい名前だね」


 パルスはそう言うと、ギャンズの元を去っていった。

 ギャンズはただぼうっと立っていた。

 すると、彼女が振り返える。


「そうだ、ギャンズ君は、戦える?」

「まぁ、一応」

「ならさ、ガーディアンズに入らない?」

「……ガーディアンズ?」




 その頃、地獄にいたローゼスは地下牢の壁に寄りかかっていた。

 身体中の傷が膿み、痣は青くなり始めた。

 食事はいつ取ったのが最後だろうか、あのゲロのような料理でも良い、身体の血肉になればそれで満足だと思えてきた。

 服は布1枚で、風呂に入っていないので、周りにハエがたかり始めていた。

 牢獄の前にまた鬼が現れる。


「女ぁ、またムシャクシャすっからよ、付き合えや」


 ローゼスにはその返事を返す気力は無い。

 鬼、鉄格子の扉の鍵をあけると、ローゼスの顔を手に持っていた棍棒で叩き込む。

 ローゼスは額から血を流し、全ての力を失った様に倒れる。


「おいおいなんだよやりがいがねぇなぁ!」


 鬼はさらにローゼスの背中を踏み、そのまま大きく踏み込む、ローゼスは肋骨が1本ヒビが入るような音を聞く。

 口から血が少し垂れ、ローゼスは生きる気力が少なくなっているのだと感じ始めていた。

 正しくここは地獄そのものだった。

 常に自分の意思は否定され、理不尽な暴力で身体を傷つけられる。

 生きる希望をどこに見い出せば良いだろうか。

 今見える景色に、希望は無い。

 なぜこの罰を受ける? 私が何をした?

 ああ、そうか、今まで殺した魔物、悪人、その他大勢なのだろうか。

 鬼がさらに棍棒でローゼスの背中を叩きつける。


「辞めろ」


 冷たい声が、鬼の暴力を静止させた。


「なんだよ、憂さ晴らしならこいつにしろって言ったのあんたじゃねぇか」

「舐めた口を聞くのなら……」

「……ああわかったわかった」


 そう言いながら鬼は牢獄を出ていった。


「ローゼス・グフタス。起きろ」


 ローゼスが顔を上げると、そこには1人の女性が立っていた。

 金髪のセミロングに、緑を基調とした軍服を着ており、頭には服と同じ色の軍帽を被り、黒いブーツを履いていた。

 顔つきは幼いものの、目付きが鋭く、軍人と言えよう。


「貴方は……」

「ジオニス・リロングだ。この地獄を統べる者、とでも言っておこう」


 To Be Continued

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