天国と地獄編

第29話 地獄へ落ちろ

「天人……だったのか?」


 ギャンズの背中から現れた蝶のような光の羽根はさらに広がり、ジャリルをじわじわと後ろへ押し進める。


「覚醒したか……ジャルス!」

「だから俺はジャルスじゃない!」


 さらにギャンズの蝶の羽根は広がり、周りの草木が吹き荒れる。

 ナタク達も危険を察知し、避難をしようとした時、何かが突然彼女達の目の前に現れた。


「鷲だと……」

「ラ、ライオン……」


 突如現れた2体の精霊、ナタクは鷲に口にくわえられ、フウカは獅子に食われてしまった。


「皆さん!」


 ギャンズがそう叫ぶと、突如ギャンズの体に大量の疲れが流れ込み、気を失ってしまう。

 ジャリルは倒れ込む彼を受け止め、抱え込む。


「彼は、私で預かります、ローゼスはどうしますか」

「地獄に落とす」

「……地獄ですか」

「ああ、そう簡単には這い上がれん」


 キシリスは倒れたローゼスを囲むように紫色の宝石を等間隔に打ち込む。

 そして謎の言葉を唱えると、石で囲まれた円を切り抜くように黒い穴が現れ、ローゼスはその穴に沼に入るように沈んでいく。


「無慈悲だねえあんたも、娘さんを地獄に落とすなんてよ……」









 ローゼスは目を覚ますと、そこは馬車に載せられた牢屋の中だった。

 服装も布を適当に縫ったような服で下着も何も無かった。

 両手足は錠で縛られ、錠の鎖は壁に打ち込まれている。

 牢屋の外から見える景色はいつもの世界とは全く異なっていた。青い空は血塗られたように赤く、地面は枯れ、荒野には草1つ生えていない。生えている木も全て枯れ、所々に頭蓋骨が落ちている。


「……ここは」

「おう、あんた起きたかい」


 後ろの方から声が聞こえた。

 ローゼスはすぐに振り向き、おそらく馬車を動かしているであろう御者に声をかける。


「ここはどこですの?」

「ここは地獄だよ」

「地獄……? 私は……死んだの?」

「地獄っつってもほんとに地獄じゃねぇ、この上にはあんたのいた世界がある、ここはそこから何千何万と深い地下の世界さね」

「でも空があるじゃない」

「あの空はまやかしだよ、あんたがそこまで飛べれば問題ないが、いつか天井を見つけられるさ」

「……そういえば、ギャンズは? ナタクは? あっあとフウカは? どこに居ますの?」

「落ちてきたのはあんたさんだけだよ」

「……そんな」


 ローゼスは仲間とは二度と会えないのかと絶望する。

 しかし、まだ脱出出来るかもしれない、そう希望を持って生きなければと思い込むことにする。


「ところで、私はどちらへ連れていかれますの? そのなんというか……私確実に罪人じゃありません?」

「何言ってんだい、来ただけで罪人なのいくらなんでも理不尽じゃないかい?」

「なら、私はどちらへ」

「ワシがいつから人間だと思ってるんだい?」

「……へ?」


 その時、馬車が止まり、御者が牢屋の扉を開けようとする。黒いローブを被っていて、見た目がよく分からなかったが、近くで見るとローゼスは御者の正体を知ると、背筋が凍った。

 御者の頭には小さいながらも角が生えていた。

 髪は白く、シワも多いものの、御者はローゼスに首輪を取り付け、手足の枷を牢屋の壁から外し、先を重りに付け替える。


「あんたは今からオーガの玩具さね」


 ローゼスの叫びが地獄の空に響き渡った。












 一方その頃、ナタク達は突如現れた精霊達に連れ去られ、デザーツ砂漠に来ていた。


「……それで、どういう事だ」

「つまりやな、令嬢をとっとと減らしてはよ優勝者決めよっちゅーことやねん」


 ナタク達を連れてきたのはスミカ・サバナだった。


「それはわかる、たからなぜ私達を連れてきたんだって事だ。お前だけで逃げれば良かろう、それなのになぜフウカやまだ怪我をしているレフルを連れてきたんだ」


 ナタクの他に怪我をしている為に寝ているレフルと突然目の前に現れた獅子の精霊に恐怖し、少し下半身の股が濡れたまま失神しているフウカがいた。


「あーそれはやな、この大会をぶっ潰すからや」

「……何故だ」

「この大会の目的がそもそもワイらの聞いてんのとはちゃうんや」

「……は?」

「表向きの目的は『国同士の争いを避ける為に令嬢による代表戦を各地で行い、1番の令嬢を決める』まあそれだけ聞いておけば納得出来なくはないや、せやけどなナタク、この大会、実は別の理由があんねん」

「……なんだ」


 スミカは、少し黙り込んでこういった。


「わからん」

「貴様ふざけるのもいい加減しろ! ぶっ殺すぞ!」

「まぁ待てや待てや、ここはカレーでも食って……」

「なんだ貴様ギャンズを救わず私たちを勝手にすぐ嫌がって! ギャンズはどうしたギャンズは! あの鳥羽根野郎どもにチキったのかお前は!? まずはギャンズ君を優先させろ! あの子が無事なら私は手足が引きちぎれようと構わん! そんじゃあカレーはいただきます!」

「うわあ、ブチギレながらちゃんと食べるんかいあんた」


 ナタクは目の前に差し出されたカレーをかき込んで、落ち着く。

 なぜこんなに彼女が荒れているのかと言うと、ギャンズが居なくなったからである。


「……とにかく、あの時来た天人と言い、何かしら裏はありそうだな」

「そうなんや、それを探さなあかん」

「それで、私たちに協力を求める為にあんな事を……」

「あたり〜」

「私は乗った」

「……随分あっさりやな」

「もう既に私は負けている、それに。ギャンズを救えるならな」

「……さっきから気になっとったんやが、あんたギャンズ好きなんか?」


 カレーを食べるナタクの手が止まる。


「…………ああ言う人が好きなんだ」

「……ぶっちゃけキモいで」

「ぐっ…………」


 ナタクは心に会心の一撃を食らった。


 To Be Continued

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