第28話 薔薇は散り、光の羽根が生まれる。

 レフルの勝利で終わった決闘。

 その後ドロシィは部下に搬送され、レフルもまた、城の医務室に運ばれていった。

 


 レフルが目を覚ますと、ベットの上にいた。

 目の前の視界には執事の姿とローゼス達がいる。


「おつかれ様です」 


 ギャンズがそう言って、レフルに水を渡す。


「あ、ありがとう……」

「怪我、大丈夫ですの?」

「ああ、すっげー筋肉痛」

「あら、その程度なら大丈夫ですわね」


 そう言って、ローゼスが医務室を去る時、レフルは小声でこう言った。


「ありがとな」

「……ん? なにか言いましたの?」

「特に何も」


 その時、再び召使いたちが慌てて医務室に駆け込んできた、その波に流され、下敷きになってしまう。


「お嬢様ァ! てっ、て天人がァ!」

「どうした!?」

「天人が、現れました!」


 すると、下敷きになったローゼスが弱々しい声で言ってきた。


「痛い……私、下敷き……」

「あっ……失礼、とにかく天人が来ました!」




 ローゼス達は動けないレフルの代わりに城の前にやってきた。

 目の前には黒いドレス姿の目元を隠す仮面を被った女性と、背中に純黒のランドセルを背負い、サングラスをかけた茶髪の男の姿、そしてもう1人の男は長い黒髪を後ろに纏め、女性と同じように目元を仮面で隠していた。

 その男の姿をギャンズは知っていた。


「ジャリル・ジャジールさん……!?」

「一体何用ですの?」


 黒いドレス姿の女性は言う。


「……ローゼス・グフタス。お前を倒す」

「天人と言えど……地上で勝手は困りますわね」

「……地に這い蹲る蛆共が」


 女性はそう言うと、腰から筒状の武器を取り出す。筒状の武器からは鎖が伸び、鎖は周りに紫色の光を帯びている。

 その武器を見て、ローゼスは唖然とした。


「それは……プロトローゼン……」

「お嬢様、知ってるんですか?」

「私のローゼンクロイツの試作品ですわ、確か……力を制御するのが難しくて、廃棄されたはずですわ……」


 黒いドレス姿の女性は突然、て、プロトローゼンを叩きつける。

 ローゼスは避けるも、ローゼンクロイツとは比にならぬその威力で周りにいたナタクとフウカも吹き飛ばされる。


「我が名はキシリス、ローゼス・グフタス。お前を、EBRから強制退場させる」


 その言葉にローゼスは驚きを隠せなかった。


「はぁ? いくら天人と言えど、その様な暴挙、許されるとお思いで?!」


 茶髪の男がローゼスの問いを答える。


「残念だが、キシリス様にはそういう権限っつーのがあるんでね。残念だな、殺戮令嬢さん」

「……なら、私を倒してみなさい」


 ローゼスはローゼンクロイツを鞭状態にし、キシリスの体に鞭を叩きつける。

 しかし、ローゼンクロイツはプロトローゼンに防がれ、ダメージは入っていなかった。

 さらにキシリスはプロトローゼンを素早くローゼスの脇腹に叩きつけ、ローゼスを城壁に衝突させる。

 ローゼスは胃液を吐き出し、その場に倒れる。


「残念だったな、もう時間が無い」


 キシリスはそう言うとローゼスに近づき、彼女の首を持ち上げる。

 ローゼスは息がつまり、口に残った胃液が滴り落ちる。


「やめろォ!」


 二人の間にギャンズがレイピアを抜いて突きを放つ。

 キシリスはローゼスを離し、ギャンズはローゼスを抱える。


「天人だからって、いきなり攻撃して良いんですか?!」


 ローゼスを地面に寝かせたギャンズは、3人の天人にレイピアを向ける。


「我々に向けたうえでそんなことを言うのか?」

「先にやったのあなた達ですよね」

「……そうだな、ジャリル、彼を」


 そう言うと、ジャリルは腰に携えた剣を抜き、ギャンズに切りかかる。

 ギャンズはそれをレイピアで防ぐ。


「なんで貴方まで……」

「許せ、弟よ」

「僕は、あんたの弟じゃない!」


 ジャリルはギャンズのレイピアを弾き、剣の柄の先端を鳩尾に叩きつける。

 ギャンズは膝をつき、そのまま倒れてしまった。


「……認めないか」

「他のもの共も、今ここで敗北を認めるのならば、命までは取らない」


 ナタク達は反抗するように臨戦態勢に入った。


「いくら天人と言えど、やりすぎでは無いか、それに……ギャンズを」

「ナタクさんの言う通りです……わがまま、ダメです!」


 すると、ローゼスが立ち上がり、フラフラとした足取りでキシリスに近づいてきた。


「ローゼス、貴様は休んでろ!」


 ナタクの制止も聞こえないのか、ローゼスは歩みを止めない。

 ローゼスは、弱々しく儚い声で、キシリスに話しかけた。


「……お母……さん?」

「何を言っている」

「聞き覚えがある……の……ロゼル……お母さん……だよね?」


 そう言ってローゼスが近寄るが、キシリスは彼女の顔を蹴る。


「違う、誰が貴様の母親だ」

「顔を……見せて」

「それ以上、抵抗するのなら」


 キシリスはさらにプロトローゼンをローゼスの体に巻きつける。そして、彼女の体を縛り付ける。

 ローゼスの肋骨が数本折れ、吐血し、そのまま倒れた。

 ローゼスは気を失った。

 彼女の手元には、花弁の散った思想薔薇があった。


「キシリスぅぅぅぅうううう!!!!」


 ギャンズは叫びと共に、レイピアを拾い、キシリスに飛びかかる。

 それをジャリルが防ぎ、キシリスは一旦引く。


「やめろ、お前はこちら側のはずだ」

「違う! 僕は! 僕は!」


 ギャンズがレイピアでジャリルを押し進めると、背中から何かが裂けはじめる。


「まさか……」

「あれは……」


 ナタクは、何かを察した。


「ギャンズ、君は……」


 ギャンズの背中から出たのは、蝶のような羽根が生えていた。


「天人……だったのか……?」


 〜EBR編 完~


 NEXT


 〜天国と地獄編〜


 To Be Continued

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