第27話 疾風術

「……以上だ」


 レフルが話し終えて、振り返るとそこにはハンカチを濡らしながら鼻水と涙が滝の如く溢れ出るローゼスの姿があった。


「泣きすぎだろ! ドレス濡れるぞ!」

「ズビバゼンゴヴイ゛ヴバナ゛ジヨ゛ワ゛グデ」

「発音ガバガバじゃねーか! 拭けこれで!」


 レフルはローゼスにらハンカチを渡し、ローゼスはそれで鼻水をかむと、鼻息が強すぎたのかハンカチが勢いよく吹っ飛んだ。


「飛ばすな!」


 泣き疲れたローゼスは目頭に溢れ出る涙を袖で拭き取る。


「とりあえず、貴方の事情は分かりましたわ」

「ああ、泣き終わったんなら早く帰ってくれ。お前明日決闘だろ?」

「いや、明日私は決闘しませんわ」

「……はぁ?」


 レフルは唖然としてしまう。


「なんで……」

「そんな話を聞いて、私があのハナクソ地雷女倒したら、元レフルさんが成仏しないですわ、現レフルの貴方がボコしてしまった方が断然良いですわ」

「……でも私は、影武者だし」

「貴方はもう王女じゃないですの」

「私はサイクロの血を引いてない!」


 そう言うと、ローゼスはローゼンクロイツで素早くレフルの指先を少しだけ切った。


「いっ……何すんだよ」

「あなたも同じでしょう?」


 レフルの指先からは血がじんわりと滲み出る。その血は赤い。あの時の彼女から出た血のように。


「血の色はあの人と同じでしょう?」

「……そうだけど」

「なら、貴方が継いでも、問題は無くて?」


 レフルは少し落ち着いて、包帯で傷口を塞ぐ。


「それに、あなたが継いでも、その人は恨まないと思いますわよ」

「……少し考える」

「お返事、楽しみにしてますわ」


 そう言って、ローゼスは退室した。




 翌日、ウイント城専用闘技場。

 ローゼスとドロシィが、何も無い闘技場の真ん中で対峙していた。

 周りは壁に囲まれ、その上に観客席を囲うように存在する闘技場。入口は鉄格子の扉が2つのみ。

 ドロシィは箒を手に、腰には杖を携えている。

 ローゼスもまた、ローゼンクロイツを鞭状態にし、戦闘の体勢を取る。


「「美しき決闘をおこな」」

「ちょっと待ったァ!」


 闘技場に響き渡る声と共に、二人の間にレフルが飛び降りてきた。

 観客席で見ていたギャンズ達は驚きを隠せなかった。


「何よあんた! 私達の決闘よ! 邪魔しないで貰える!?」


 ドロシィがそう文句を言うと、レフルは鼻で笑う。


「私はローゼスの決闘代理人として、あんたと決闘する!」

「はぁ? あんたバカなのかしら? 私はローゼスと決闘しなければならないの、代理人なんて、そもそも契約には無いじゃない」


 すると、ローゼスはローゼンクロイツをしまった。


「ちょっと、アンタも何してんのよ」

「彼女を今から、決闘代理人として認めますわ」


 そう言って、ローゼスは思想薔薇をレフルに渡した。


「これで良いな。ドロシィ」

「し、しょうがないわね……」


 ローゼスは鉄格子の扉から闘技場を退場する。

 こうして、闘技場にはレフルとドロシィ、2人のみになった。


「「美しき決闘を行う」」


 2人がそう言った刹那、レフルは間合いを一気に詰め、ドロシィに向かって飛び蹴りを放つ。

 ドロシィは杖の先から瞬時に魔法陣を展開し、レフルの蹴りをガードする。

 レフルは弾かれるものの、空中で回転し、地面に着地する。

 ドロシィは箒にスケボーの様に足を箒の柄に乗せ、空中に舞う。


「空中なら、コッチが!」


 ドロシィは再び杖の先から魔法陣を展開、そこから光線をレフルに向けて放つ。

 レフルは光線を避け、ジャンプしてドロシィに向けて蹴りを放つも、飛距離が足りなかった。

 ドロシィは三角帽子から、細かく砕かれた宝石のようなものを取り出し、それを投げつける。

 レフルは投げられた宝石を怪しいと判断し、避ける。

 宝石は地面に着弾すると、爆発を起こし、闘技場の地面に黒い跡を残す。

 

「これじゃ……」

「あんたもバカねぇ、いちばん相性が悪い私と決闘するなんて」


 ドロシィは杖からさらに魔法陣を複数展開し、それらの魔法陣から弾幕の如く光線を連発する。

 さらに魔法陣は右往左往に動き回り、標準を予測させないように乱れ撃ちをしてきた。

 レフルは避ける一方で、なかなか攻撃を当てられない。


「くっそお……」


 レフルはあの技を使えればと思っていた。

 サイクロの一族に伝わる秘術。

 マジョリアがウイントを狙う理由ともなったあの術を。

 だが、レフルはあの技を使いこなせたことは無かった。

 やはりあの一族でなければ、扱うことは不可能なのか。

 レフルはそう考えていた。

 そんな考えを巡らせていたその時、腹に熱い痛みが走る。

 どうやら、光線が当たってしまった様だ。

 レフルは耐えるが、動きがさっきよりも鈍く、避けるのに精一杯になってきた。

 血がジワジワと流れて、意識も少しずつ薄く感じ始めた。

 少し立ち止まろう。

 身体が立ち止まった瞬間。

 複数の魔法陣が一斉に、レフルに標準を向けた。

 まずい。

 そう思った瞬間、ある声が脳裏によぎった。


「負けないで、アズサ」

「レフル……?」


 刹那、身体中に力がみなぎり、レフルは一瞬にして空中にいた。


「あの射撃を……避けた?!」


 ドロシィは驚いてレフルの飛んだ方向を見ると、そこには、竜巻を纏ったレフルの姿があった。


疾風術しっぷうじゅつ……」

「アズサ……行きます」


 レフルは竜巻の突風に乗り、急加速を起こし、ドロシィの頭にかかと落としを叩き込む。

 ドロシィは叩き落とされて、地面に激突、闘技場の地面にヒビが入る。

 レフルは竜巻の突風で再び急加速、ドロシィの顔面に蹴りを打ち込もうとするが、避けられてしまう。


「その術……やはり脅威にしかならな」


 ドロシィの言いかけたセリフはレフルの腹への蹴りで打ち消され、ドロシィは横に吹き飛ばされる。

 諦めが悪いのか、ドロシィは立ち上がり、杖をレフルに向ける。


「てんめぇ!」

「終わりだァああああああああぁぁぁ!!!」


 レフルは急加速し、ドロシィにトドメの一撃を放つ。

 ドロシィは魔法陣を展開、それをガードするが、レフルのキックはさらに加速する。

 すると、魔法陣にヒビが入り始めた。


「そんな……」


 そしてついに、魔法陣が破壊され、レフルのキックがドロシィの腹にめり込み、闘技場の壁に激突し、壁に大きな凹みが出来上がった。

 レフルが蹴りを終えると、ドロシィの思想薔薇が散り、彼女は地面に倒れた。


 ドロシィ・マジョーヌ対レフル・サイクロ(決闘代理)


 勝者 レフル・サイクロ


 To Be Continued

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