第25話 昔話をしていいか?
「……お前が……あの人を」
「あらあら、お嬢様がそぉーんな顔しちゃせっかくの可愛いお顔が台無しじゃない。もっとこう可愛くなくっちゃ、国民が満足ないわよ♡」
「なんですのこの地雷くっせぇ魔女は!!」
ローゼスがかなり大声でツッコミを入れると、ドロシィはローゼスに気づき、彼女に近づいた。
「あらぁ、あなたが殺戮令嬢? あんたも悪趣味に鞭なんて持ち歩いちゃって、隣の執事君とそういう事するのぉ〜?」
「しませんわよ! これは大事な物なの!」
すると、突如横からレフルがドロシィに向かって飛び蹴りを放つ。
ドロシィは箒で上昇して回避し、ローゼスもまた驚いて尻もちをつきながらも回避する。
「ちょちょちょちょっと! レフル! 危ないじゃない!」
「お前がぁ! あの方を!」
「あらあら、この国のお嬢様は随分乱暴なのねぇ♡」
レフルは冷静な判断ができないのか、振り返ってドロシィに拳を放つ。しかし、ドロシィは、それを避け、箒に跨いで空に舞い上がる。
レフルはジャンプして箒を掴もうもするも、ローゼスはローゼンクロイツを鞭状態にし、レフルを縛り上げる。
「痛いのは我慢してください」
「離せこのっ……」
縛られながらも、レフルはドロシィの方へ進もうとする。
「あらあら、可哀想に〜♡ ところでローゼスさぁん♡ 私は貴方に決闘を申し込みたいのよ♡」
「わ、私に?」
「そう、あんたを倒せば、無条件で世界一の令嬢にしてくれるって頼まれたのよ♡」
「誰に頼まれたの! 私をどうして!」
「さぁねぇ〜♡ 頼んだ人は天人って位かな〜♡」
ふざける彼女の態度にローゼスは苛立ちを感じ始めた。
「分かりましたわ! 私が受ければよろしいのね! やってやろうじゃないですの!」
こうして、ローゼスとドロシィの決闘は明日行われる事になった。
その日の夜。ウイント城内の自室にて、レフルはミルクを飲んでいた。
ローゼス達は客室に案内し、ドロシィ達は低俗な国の施しなど受けたくないと、自分たちでテントを作って外で過ごしていた。
余程の自信の現れなのだろう。だがそれ以上にレフルは、ドロシィ達魔法の国マジョリアの連中が許せなかった。
あの日の事を忘れたことは無い。今も重なる自分の罪の重みを感じながら、レフルはミルクを飲み干した。
すると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
ローゼスが入って良いのかとドアの向こうで問う。
レフルは、扉を開けた。
「……どうした。明日の決闘が不安なのか?」
「あなたのことで、気になる事が」
「なんだ?」
レフルは話を聞きながら、ホットミルクを彼女のカップに注ぐ。
「ドロシィに、何をされたの?」
一瞬、レフルの手が止まった。
「貴方は、ドロシィに何をされたの? あの時貴方の行動は、敵国だからとか、政治的な立場で憎むような感じではありませんでしたわ。恨みがある様な……むしろ殺意に近いもので」
「すまない、帰ってくれないか? ミルクを飲みたいのなら、メイドに頼めば良いんだ」
レフルはローゼスの言葉を遮る様に言った。
「いえ、私は帰りません。貴方とドロシィの間に何があったのか、ただ知りたいだけですわ」
レフルは、ローゼスに向かってカップを投げつけた。カップは壁に当たり、砕け散る。
ローゼスは避けたものの、少しだけミルクの飛沫を浴びる。無論、熱いミルクで軽く火傷するが、ローゼスはそれを表に出す事はなかった。
「あんたには関係ないだろ! これは……こっちの問題なんだぞ!」
「なら、決闘で済ませば良いのでは? 決闘とは、戦争を起こさない為に作られた、国の代表同士による戦い。無駄な命を散らさぬように最小限にして最低限の犠牲で済むように縮小化された物ですわ」
「……私が、王女ならな」
その言葉に、ローゼスは唖然と困惑を同時に感じる。
「な、何をおっしゃいますの? 貴方は、ウイントの王女、レフル・サイクロではありませんの」
レフルは、ベットに座り、窓から見える夜空を眺める。
「少し、昔話をしていいか?」
14年前の寒い冬の事だった。
名前のない少女は、布1枚でウイントの草原に吹く冷たい夜風を耐えていた。
ここ2日は食料にありつけていない、川の水は凍り、そろそろ馬糞を食う覚悟をしなければならないと考えていた。
その時、一台の馬車が目の前に止まった。
豪華な装飾は無いものの、気品を感じさせる馬車だった。
「大丈夫ですか?」
馬車の窓を開けて中の少女は声をかけた。
名前のない少女は、視線を少女に向けると、驚いた。
そして名前のない少女の顔を見た少女もまた、驚いた。
「あら、私と似てるじゃない!」
2人は気味が悪いほど、顔が似ていた。
馬車に乗っていた少女はレフル・サイクロ。ウイントの王女だという。
レフルは名前のない少女を城へ連れていくことにした。
城の中は暖房がついていて暖かく、名前のない少女は出されたパンを胃の中へ押し込み、それをホットミルクで流し込んでいこうとするが、ホットミルクは熱くて、舌を火傷してしまった。
そんな彼女の様子を見て、レフルは微笑む。
「そんなに急がなくても、誰も横取りなんてしないわ」
名前のない少女は、レフルを見る。
「……似てる」
「そうね、だから頼みたい事があるの」
レフルは、手元のホットミルクを飲み、こう言った。
「私の影武者にならない?」
To Be Continued
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