第24話 風の国ウイント

 エレガンス・ロイヤル・サバイバル開始から、5ヶ月が経過した。

 世界新聞では、残る令嬢も僅かとなるが、例年よりもやや遅いと言われているらしい。

 令嬢達の華麗で秀麗、そして過激な決闘は果たしてどうなるのか。

 そしてローゼス達は今、馬車の荷台に乗り、のどかな農道をゆっくりと走っていた。


「……速さどうにかなりませんのご老人!?」


 ローゼスがツッコミ気味に文句を言うも、馬車を動かしている猫背で細目の老人は耳を傾けてローゼスの甲高い声をなんとか聞き取り、呂律の回らぬ舌で話し始めた。


「お城までまだ♪?!&#?☆&#?♡☆☆」

「なんて?!」


 ここは風の国、『ウイント』。

 大陸の東部にあるこの国は常に良い風がマカクラの山々から吹き下ろされる。

 酪農が盛んであり、チーズ、牛乳などはかなりの出荷量を誇っている。

 連盟国の中でも落ち着いた国民性のこの国に、なぜローゼス達は居るのか。

 数日前の事だ。

 フウカを含めたローゼス達4人は、次の国への行き先を考えていた。

 このまま南下して行く案がギャンズから出るも、フウカがどうしても行きたいという国があった。それが、ウイントだった。

 フウカはどうやら、ウイントの乳製品を大変気に入っているらしく、どうやら本場の味を知りたいというのだ。

 ローゼスもナタクも、おそらく最も歳下である彼女の意見を受け入れ、ローゼス達はウイントにいる『疾風令嬢』の元へ向かう事になった。

 早く城に着きたいローゼスに対し、ギャンズ、ナタク、フウカの3人はのんびりとトランプのダウトに一興していた。


「3」

「……4」

「「ダウト」」

「ふぇっ!?」


 4を出したフウカが恐る恐る1番上の札をめくると9であった。


「なんでバレるんですかぁ……」

「嘘が下手だな」

「ですね」


 フウカは大量の手札を抱え、シクシクと涙を流す。

 すると、放牧場から元気な子供達の声が聞こえてきた。どうやら数人の子供達が追いかけっこをしているようだ。子供達が追いかけているのは、とある女だった。

 黄緑の髪を後ろに束ねたポニーテールで、白いワンピースに麦わら帽子を被っている。

 

「元気な人達ですね〜」

「ですね」


 すると、馬車を動かしている老人はこんな事を言い出した。


「あ〜あの人が女王よ」


 その一言に全員が老人を振り向いた。


「えっ」

「は」

「ふぇ?」

「え?」


 老人は驚いて固まり、馬車もピタリと止まる。


「んだ? おめぇら、城に行きてぇんじゃねぇのか?」

「「「「あの人に会いに来たの!!」」」」



「いやぁ、わざわざ来てくれてありがとう。私はレフル・サイクロ。ウイントの王女だ。よろしく」


 農場のど真ん中で、彼女は快く4人を迎え入れた。


「私はローズダム王女、ローゼス・グフタスですわ、こちらは執事のギャンズ・マクベル」

「シェンシェーの女帝ナタク・タオリンだ」

「マカクラの……フウカ・ユキタニです」

「そうか! よろしくな! んで何の用だ?」

「私とけっt」

「マカクラにウイント産チーズ及び牛乳の輸入ルートを作りたいのですが」

「フウカさん!?」


 ローゼスの話を遮ってまで、フウカはマカクラに輸入ルートを作りたかったらしく、ローゼスが珍しいツッコミを入れる。

 フウカ手元には、馬車の中で書いていた企画書まで持っていた。


「ま、まぁ城でゆっくりと話そうか……」



 ウイント城、王座の間。

 石畳で窓から入る日が部屋を明るくし、赤いカーペットの先の階段の頂上りに、玉座が堂々と設置され、その玉座の前にレフルは立っていた。


「んで、フウカちゃんはうちの牛乳やチーズを輸入したいのか、んで……ロールケーキ?」

「ローゼスです」

「ああ、ごめん。ローゼスは私と決闘……したいんだね」

「ええ、私、ERSを本気で取りに来ていますの」


 その言葉を聞き、レフルは少し黙り込んだ。


「そうか……」

「どうかしましたの?」

「うーん……いや、決闘は受ける。ただ……その……」

「どうかしましたの?」


 レフルはローゼスの耳元であることを伝える。その言葉に、ローゼスは困惑する。

 その直後、外から大きな爆発音と衝撃が起き、城内に召使い達が駆け回った。


「レフル様ァ! ま、魔女です! 魔女が現れましたァ!」


 その言葉を聞いて、レフルは驚き、すぐに外に向かおうとした。


「ど、どうしましたの?!」

「魔女……まさか……あの魔女か!」


 レフルはローゼスの呼び掛けを無視し、城の外へと行ってしまった。


「我々も行くぞ」


 ナタクがそう言い、4人も外へ行く。



 城の外に出ると、目に映るのは大きなクレーターと、上空に浮かぶ箒に乗った魔女、大きな三角帽子を被り、黒いドレスに身を包んだ正しく魔女と呼べる姿その物である。

 金髪の彼女は、しっかりと見ると、容姿は少女であり、正確に呼ぶならば魔法少女と言ったところか、まるで人を精神的にも物理的にも見下しているようだった。


「やぁ、ド田舎国のお姫様♡ 私はドロシィ・マジョーヌ。魔法の国『マジョリア』の魔法令嬢。よろしくね、魔法も使えないザコザコ人間さん♡」


 目の前にいたレフルは拳を握り、ドロシィを睨んでいた。


「お前が……あの人を……」


 To Be Continued

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