第23話 仮面男
決闘から翌日。
初勝利を掴み取ったフウカは国中から賞賛され、パーティーや祭りが各地で行われていた。
城内でも、国内の上流貴族を招き、パーティーが開かれていた。
ローゼス達もまた、城内で食事を楽しんでいる。
「これ美味しいですわね」
「はい、こちらユキミスライムを凍らせてゼリーにした物であります」
ローゼスの問いかけにヒラタが答える。
「ギャンズ、気に入ったからこれ作れるようにお願いね」
ギャンズは面倒くさそうな顔をしながらも、メモを取り出して料理長に聞きに行った。
「お前……結構ワガママだな」
「女王様よ、当然ですわ」
ストイックな性格のナタクはあまり王としての権力を振るわない性格らしい。
ギャンズに対しても奥手なのはこのせいでもある。
「全く……いつもワガママなんだから」
ギャンズがいつもの事のように感じながら料理長からレシピを聞き、パーティに戻ろうとした時。
「ちょっと、君」
1人の男が、彼を呼び止めた。
「はい?」
ギャンズが振り向くもそこには長い黒髪を後ろに束ねた紳士服の男がいた。
そんな彼の服装よりも、ギャンズが気になったのは、顔の方だった。
顔つきは美形であるが、何故か目元を隠すマスクをしていた。ギャンズは最初、彼が不慮の事故などで顔を怪我したのかと考えた。
「……貴方は」
「ああ、私はジャリル・ジャジールだ。よろしく」
「ローズダムの女王の執事をしております、ギャンズ・マクベルです」
ギャンズも挨拶を交わす。
「ギャンズ君か……若いのに執事とは、大変だな」
「いえ、元々奴隷だったと思えば楽ですよ」
その言葉を聞き、ジャリルは少し後ろめたさを感じていた。ギャンズはなぜ彼がそう感じているのかは、分からなかった。
「ギャンズ君、君は……天人をどう思う?」
「えっ?」
あまりにも唐突な質問に、ギャンズは困惑した。でも、彼も悪意があって聞いているとは思えなかった。
「さぁ……まだあまり会ったことはありませんけど、僕らとは別の世界の人なんですよね? ちゃんとしてるのかなぁって」
「……そうか」
「どうかしたんですか?」
ジャリルは手元のワインを見ながら答えた。
「私は、天人だ」
その言葉にギャンズは驚いた。そして一瞬彼の言葉を疑った。なぜなら、彼には翼が生えていないからだ。
ギャンズの知っている天人は、高貴な存在であり、自分達とは格が違う存在のはず。だがジャリルはたとえ高貴な服装に身を包んでいたとしても、彼には天人の象徴とも言える翼は生えていないのだ。
「……本当なんですか?」
ギャンズは半信半疑で聞く。
「ああ、元々。我がジャジール家は翼が無い。先天的な物だ」
ジャリルは話を続ける。
「私には、弟が居た。ジャルス・ジャジールという名のな。昔、ジャジール家とゲルグス家同士で家系同士の争いが起きた。その時、ジャルスは、天界から、地上に落ちていった……おそらく、即死だろうと言われた」
「……そうなんですか」
「私は、ほんの僅かな確率でも、弟が生きている事を願って、地上界に降りてきた」
そして、ジャリルは仮面を外した。その顔つきは、ギャンズを少し大人にした様な、凛々しい顔つきで、同じ赤い瞳をしていた。
「そして今、私は感動の再会をした」
その頃、ローゼスはフウカに呼ばれ、城の人気の無いベランダに来ていた。
ローゼスはグラスのぶどうジュースとユキモチと呼ばれるこの土地で取れるツララ米という寒さに強い米を使い、それらを捏ねて作り上げた餅を甘だれにつけた料理を食べていた。
モチモチとした食感と甘いタレの味に舌鼓を打っていると、呼んでいたフウカがやって来た。
「あの、すみません。楽しい所わざわざ。お母さんが色々呼んじゃって………」
「良いのよ、ここの料理美味しいですし。所で、お話ってなんですの?」
「実は……」
フウカは決心し、こう言った。
「私も、一緒に連れてって貰えませんか?」
ローゼスは意外な頼み事だと思った。初対面でローブを被り、決闘さえ拒んだ彼女が、殺戮令嬢の私と共に旅をしたいなど、またここに籠る生活をするのでは無いかとばかり考えていた彼女は少しだけ、フウカの目が、前を向きはじめたと感じる。
「……どういう風の吹き回し? お母様? それとも、ヒラタ?」
「いや、私が……自分で、そうしたいって思いました……決闘してて思ったんです。自分はこの国を背負う人なんだって……。私、自信が無かったんです。この国を私が纏められるかなって。動物みたいに、みんな優しいのかなって。怖かったんです。でも、決闘に勝ったあと、みんな……私の事尊敬してくれてて……みんなから褒められたのが……とっても嬉しくて……だから、もっと。色んな所に行って。強くなって……この国だけじゃなくて、世界も、纏められる様な人になりたいって思ったんです」
ローゼスはグラスのぶどうジュースを飲み干して答える。
「……そう、いいと思いますわ」
「じゃあ一緒に……」
「ええ。着いてきて宜しくてよ」
ローゼスは近くの使用人を呼び、二人のグラスにぶどうジュースを注いだ。
「新たな仲間に、乾杯」
「……はい!」
To Be Continued
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