第19話 雪原の少女

 雪山アサマサ。

 ローゼスとギャンズは吹雪の中、とある国を目指し歩いていた。

 一応2人は防寒着を着ているものの、顔は寒さで青白くなり、息も凍りついた。

 食料は全て凍りつき、早く風をしのげる場所は無いかとさまよい歩く。

 ろくにコンパスも地図も見れぬ猛吹雪、ギャンズはローゼスを追うので精一杯だった。


「くっそさみぃですわあああああああ!!」

「お嬢様ぁああああ!! 迷子になりますよぉおお!!」

「なんだってぇ!!」

「迷子になりますうぅぅぅ!!」

「あんだってぇええ!」

「迷子ぉぉぉぉ!!!」

 

 ギャンズはローゼスに紐を渡し、遭難しないように自分の腰に巻いた。


「お嬢様も巻いてくださああああい!」

「さっきから何を言ってるのぉぉぉ!」

「巻けえぇぇぇぇええええ!!」


 猛吹雪の中、ギャンズとローゼスの声が響いていた。

 何とか、岩の洞窟を見つけたギャンズとローゼスはそこで焚き火を起こし、吹雪が止むまで待機することにした。


「お嬢様、ほんとにあるんですかね。『マカクラ』」


 マカクラとは、雪山アサマサにある雪の国である。

 国の中でも特に北の方に存在し、他国との交流は少ない。

 獣人と呼ばれる種族が暮らしているらしく、彼らは他文化の交流をあまり好まなかったため、独自の文化が形成されているという。

 そんな国の令嬢は氷結令嬢と呼ばれている。どんな生物も一瞬で氷漬けにし、倒してしまうと言われているらしい。


「私は南育ちですし、寒いのは新鮮で楽しいですわ。こうじゃなければ」

「むしろよく行こうと思いましたね……」


 すると、洞窟の奥から声が聞こえた。


「全く同感だ」


 それは、見覚えのあるチャイナドレス姿に黒髪を後ろで束ねた女のエルフ。


「ナタクさん、ここにいたんですか!?」


 東の方にある拳法の国『シェンシェー』の女帝、ナタク・タオリンであった。


「ああ、お前らとはぐれてからここを見つけてな。奥でちょうど良い場所があったから、しばらく瞑想していたらお前らが来たんだ」

「寒くないんですか……? そんなお姿で……くしゅっ」


 ギャンズの小さなくしゃみにナタクは会心の一撃を心に喰らう。


「ぐはっ……」

「ナタクさん!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ……供給が多くなっただけだ……」

「供給……?」


 改めて説明しておこう。ナタク・タオリンは正太郎コンプレックス(本当の総称)、所謂ショタコンなのである。

 その癖はショタの全てにわたり、小説、絵などを大量に所持している。

 そして最近の推し(この世界でそんな単語は存在しないが分かりやすく伝えるとこうなる)はローゼスの執事、ギャンズ・マクベルなのだ。

 つまり彼女は今、推しのくしゃみするというシーンを生で見てかつ心配されるというハートブレイクを受けたのだ。


「ナタク、あなたギャンズと関わるとなんか挙動変ですわよ? なんというか……獣みたいな」

「何を言っている。別に私は何も変わらん」

「というか、私の護衛をするのではなくて?」

「ああ、そうだったな」


 何故ナタクはローゼスについて行っているのか。

 それはローゼスに敗北した後、彼女は自分の未熟さを知った。その為、強くなる為にナタクは彼女と旅をする事にしたのだ。ついでにギャンズともしばらく一緒に入れると判断した。趣味と実益を兼ねた行動である。


「まぁ再会出来ましたし。いいじゃないですか、お嬢様」


 ギャンズがその場を和ませ、デザーツで手に入れたスパイスを使い、焚き火の火でカレーを作り始めた。


「……なんだそれは」

「ナタクさんは初めてですか? デザーツという砂漠の国の料理で『カレー』と言うんです。僕も作るのは初めてなんですけど。一応レシピはデザーツの人から貰ってあるので、この通りに作れば大丈夫です」

「ほう……随分癖のある匂いだな」


 ナタクとローゼスは物珍しそうに作られていくカレー見ていた。


「それ美味しいですのよね〜、あの……干しパンみたいなのつけるのが」

「ナンは無かったので、ローズダムから持ってきたパンで流用しましょう」


 コトコトと煮込まれるカレーに3人は唾を飲み込んだ。

 そしてついに、カレーが出来上がった。


「出来ました! みんなで食べましょう!」


 カゴに入れたパンと木でできた小鉢にカレーを入れる。

 3人はカレーにちぎったパンをつけて食べた。

 程よいスパイスの辛さとパンの柔らかさがマッチした。


「美味しいですわ〜」

「いやぁ、初めてにしてはよく出来たと思います」

「……美味いな」


 すると、いつの間にかコートを羽織り、フードで顔を隠した少女が、カゴのパンに手を伸ばしていた。


「「「誰ぇ?!」」」


 一斉に気づいた3人は驚き、フードを被った少女は驚き、隅に逃げた。

 3人は驚かせてしまったのと同時に彼女の特徴的な容姿に気づいた。

 それは、フードに隠れていても分かる程の大きな獣の三角耳だった。

 顔は分からないが、彼女が獣の体質を持つ人間、獣人である事は明確である。


「あなた……マカクラの人ですの?」


 ローゼスが問うと、少女は首を縦に振った。


「ちょうど良かったですわ、マカクラへの道を教えて欲しいですわ。道案内出来まして?」


 少女は再び首を縦に振った。


「……喋れないのか?」


 ナタクが、そう言うと少女はビクッと背筋を震えさせてやや離れた。


「ナタクさん、怖がられてますよ」

「……解せぬ」


 その時、吹雪の中から突然洞窟に何者かが侵入してきた。

 侵入者と感じた3人はすぐ様戦闘態勢に入る。

 だが、戦闘態勢はすぐに終わった。

 侵入者はすぐに両手を上げ、少女を庇ったからだ。

 そして何より特徴的だったのが、少女と似たような獣の三角耳だった。

 顔つきは凛々しく、男であるのは明白だ。


「私は敵ではありません! この御方をお迎えに来ただけです!」

「……貴様、名を名乗れ」


 ナタクがそういうと、獣人の彼は自己紹介をした。


「私、少し先の雪国『マカクラ』の王女側近のヒラタ・マツナガと申します」


 そう言うとヒラタは3人に頭を下げる。


「側近……って事はその少女はもしかして……」


 ローゼスが問うと、ヒラタは答える。


「はい、この御方はマカクラの王女、フウカ・ユキタニ様であります!」

「「「ええええええええええええええええええ?!?!?!?!?!?!」」」


 To Be Continued

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