第17話 コンプレックスは止まらない

「神龍槍か……見せてもらおう、その武器の性能を」


 そうサツキは言うと、腰に携えた刀を抜いた。

 緩やかに曲がっている刃の曲線に光が反射振るほど鋭く、磨かれている。

 それだけで、どれほど切れ味が良いのかが把握できる。


「「美しき決闘を行う」」


 ナタクは神龍槍をサツキに向けると、神龍槍の先端が伸び、サツキに向かって刃が伸びる。

 サツキはその意外な攻撃にすぐに刀で弾き、神龍槍の刃は曲がり、壁に突き刺さる。


「避けたか、まぁこんなものでやられていては、私の暇つぶしにもならんしな」

「では、こちらも」


 サツキがそう言った瞬間、彼女は足を踏み出すと、地面を蹴るように移動し、瞬時に刀の間合いに入る。

 そして刀を右下から左上に振り上げる。

 ナタクはそれを避け神龍槍の刃をすぐに戻し、逆手に持ち替え、柄でサツキの隙のできた脇腹に突きを与える。

 しかし、サツキは脇腹への攻撃を耐え、彼女もまた肘でナタクの背中を打つ。

 ナタクは膝をつき、サツキは間合いから離れた。


「あまり刀以外のやり方は侍としてやりたくないものですね……」

「そんな誇りも、ここで消す」


 ナタクは神龍槍の刃を伸ばし、再びサツキに刃が襲いかかる。

 サツキはそれを刀で右に弾くと、神龍槍はそのまま彼女を縛り付け、身体を締め付けていく。


「負けを認めろ、もうお前は何も出来ない」

「ぐっ……」


 サツキは刀を落としてしまい、このままでは彼女の肋骨、背骨は粉砕骨折を免れない。


「お前の薔薇はまだ枯れないのか?」


 サツキはナタクの煽りを受け、腹が立った、しかしそれは侍としてあるまじき感情であり、彼女はただそれを耐えるのみ。

 どうすれば脱出できるのか、それを考える。

 彼女は全身の筋肉を強ばらせ、神龍槍を広げることを優先する事にした。

 全身の力を一気に解放させる。


「私は……」

「もう無理だ、死ぬぞ」


 バギッ。

 サツキはその音を自分の身体の中から聴いた。口から血が吹き出し、肺の空気が一気に無くなり、四肢の感覚が一気に失われた。

 自分の袖から花弁の散った薔薇が落ちる。


「……終わりだ」


 サツキは神龍槍から解放され、地面に倒れた。

 自分の身体がまるで糸の切れた傀儡の様に動かない。


「お前は負けた。心の底で敗北を認めのだ。既に、決着は着いた」


 そんなはずない。

 サツキはそう言いたかった。

 だが、声が思うように出ない。身体が自由に動かない。

 目の前の刀に手を差し伸べる事も出来ない。

 ただ見えるのは自分を担架で運ぶナタクの従者達と、背を向けて去るナタクの姿。

 彼女の視界は真っ暗な闇に包まれた。



 部屋に戻った彼女はまた例のスクラップを見た。


「ちょっとやり過ぎたかな」


 すると、ナタクから見ればスクラップの中のギャンズが答えた。

 これは彼女の幻聴である。


「大丈夫、ナタク姉ちゃんは何も悪く無いよ」

「はぁあ……そうかぁ」


 これはナタクの幻聴である。

 決して彼はそう言っている訳では無い。



 そんな彼も今は部屋でローゼスに正座させられていた。


「あの……どうしたんでしょうか?」

「どうしたもこうしたもありません!」


 ギャンズはやや不機嫌なローゼスがよく分からなかった。

 ただ風呂に入っただけであり、ギャンズにとって混浴とはその程度の認識なのだ。

 奴隷時代に貞操概念を捨てたとは言っていたが、彼は物心ついた時から女の子の裸など奴隷で死ぬほど見ているのだ。

 無論、首輪をつけられ犬のようにされていた女性や、言葉で言い表せ無いような惨い仕打ちを受けていた物も闇市場で見ていた。

 だから、綺麗な彼女の美しき曲線に美など感じないし性的興奮も感じない。

 幼い時から見すぎて普通と思っているのだ。


「ギャンズ、あなたは少し恥ずかしさを知っておくべきですわ」

「別に混浴だからいいじゃないですか。最初に言いましたよね? 貞操概念は捨てたと」

「私はあります! そんな簡単にち……を見せるんじゃありません!」

「ち▉この事ですか?」

「それも口にしない!」

「別にち▉こくらい子供でも言いますよ」

「ですから! ち……の事をあまりべらべらど言わないでちょうだい! 恥ずかしいですわよ!」

「なぜち▉こを恥ずかしがるんですか!」

「それが世間なのぉぉおおおお!!!」


 すると、部屋の扉が開く。


「2人でなんの話をしている」


 ナタクだった。

 ローゼスは王女としてあまりにも低俗な話をしていた事に対し、ナタクになんという顔を見せれば良いのか分からぬまま、とりあえずギャンズをローゼンクロイツで縛り上げた。


「お嬢様!? 痛い痛い痛い痛い痛い! 死にます!」

「す、全てこいつが悪いんですの!」


 ナタクは縛り上げられたギャンズに、縛り上げたいのは私だ、ローゼスそこをどけと言いたかったが。


「とりあえず彼を離してやれ」


 ギャンズと名前すらいえなかった。

 

「怪我はどうだ」

「何とか。温泉の効果、それなりにあったわね」

「効いて何よりだ。決闘は明後日行う。良いな」

「ええ」


 そう言って、ナタクは部屋を出た。


「……勝ったら、ギャンズ君は貰うって言えば良かった」


 ナタクは大分後悔した。


 ローゼス・グフタス対ナタク・タオリンの決闘がいよいよ始まる。


 To Be Continued

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