第16話 迫り来る恐怖

 ナタクは国に侵入者が出たにも関わらず、新聞のスクラップを顔面に当ててスーハーしていた。

 その光景はあの神龍のごとき威圧感ある普段の彼女とは真逆の姿、ねじれの位置、はたまた月とすっぽんである。

 はっきりと言ってしまえば変質者の領域に達している。


「いやぁ……まさか実物があんな美少年だとは

 微笑ましいものだ。まさかこの世にあそこまで誰もが目を奪われる完璧で究極の少年が居るとはなんと微笑ましい正しくあの姿は天使その物だああ、吸いたい、どうせなら抱きしめてやりたい、なんなら汗を取れぬものだろうか、あの美少年の汗をごくごくと……」


 長いので割愛。


「……とにかく、ちゃっちゃとあの女を倒し、私は彼を……どうしようかな……」


 今彼女の心臓の鼓動は跳ね上がり、昇天寸前である。

 その時、ドアをノックする音がした。

 ナタクはビクッとして驚くも、深呼吸をして、いつもの女帝の口調で話す。


「なんだ」


 ドアの向こうからは従者の声がする。


「ナタク様、国に侵入者が現れました」

「なんだと」

「どうやら私たちの隣国『ヤマト』から来た剣客令嬢、サツキ・ジュンが我が国の国境警備隊を倒し、領土内に侵入したらしく」

「すぐに行く、お前は持ち場に戻れ。私が対処する」


 従者は返事をして、ドアの前から消えていった。

 ちなみにナタクは自分がショタコンである事を公表した事は無い。

 さすがに世間体は気にするらしく、ショタコンが危ない性癖である事は十分承知している。


「また女が来たな。ナッちゃん、頑張るぞ」


 ナタクはギャンズのスクラップにそんな事を言って部屋を出て、部屋の鍵を閉めた。




 その頃、ローゼスとギャンズは部屋で休憩していた。

 部屋は2人で泊まるには充分な広さで、押し入れには布団があり、ベランダから見える外の景色は雲海が広がっている。


「まるで宿ですわね〜」

「一応客間らしいんですけどね……あっお嬢様」

「ん? なんですの」


 ローゼスが外の景色から後ろを振り向くと、そこには桶とタオルを2セット持ったギャンズの姿があった。


「温泉、入ります?」

「ほえ?」



 という事で、ローゼスとギャンズは風呂に入る事になった。


「温泉なんてあるのね、この国」

「昔から沢山湧き出ているらしくて、観光業はこれがメインらしいですよ? ローズダムにはあまりありませんものねぇ温泉」

「まぁ隣は鉱山ですしねぇ……鉱泉とかないのかしらねぇ」


 雑談を交わしながら2人は温泉のある場所へたどり着いた。


 そこはポツンとたった物置小屋のようなちっちゃな建物と温泉を囲うように建てられた柵だけのシンプルな作りだった。


「……ん?」

「どうしました? お嬢様」

「入口は一緒なんですの?」

「ええ、だってここですよ」

「こ、ここここ、混浴ぅ!?」


 ローゼスは混浴であることに驚き、背筋がビクッとして平然とそんな事を言ったギャンズに狂気を感じた。


「あああ貴方!? 混浴の所選んだんですの!?」

「選んだも何も、ここはシェンシェーの国の役員専用の温泉なんですよ? シェンシェーがかなり上質の温泉で」

「温泉の効用の話じゃないの私は混浴の話をしてるの!? ギャンズはその……恥ずかしくないの?! そう……この、て、貞操の概念は無いの!?」


 ギャンズはそう言われると、清らかな笑顔で。


「そんな物、奴隷時代に捨ててますよ」

「捨て無いで! 思春期の男の子でしょ!」

「まぁいいじゃないですか、僕は先に入りますよ」


 そう言ってギャンズは先に小屋に入って燕尾服を脱ぎ始めた。


「あわわわ……」



 温泉。

 それはとても気持ち良いものである。

 シェンシェーの温泉は特に身体を回復させる物が多い。

 筋肉痛、腰痛、捻挫などに効く。

 中には傷すら一瞬で治してしまう温泉もあると言う。

 シェンシェーの国御用達のこの温泉は、特に上質なものであり、どんな怪我、病気もたちまち治してしまうと言う。

 昔、とある戦士達がこの温泉を見つけ、ボロボロになった身体で温泉に浸かると身体中の傷がみるみると治り、すぐに戦場へ赴いて戦に勝ったという伝説もある。

 ただ、この文を読んでシェンシェーに行こうと思ったら、気をつけて欲しいことが1つある。

 シェンシェーの温泉は全て混浴であるという事だ。



 ローゼスは温泉に浸かった。

 脇腹の傷はズキズキと痛むものの、温泉に浸かれば少し楽になった。

 そして幸い、温泉の湯気でギャンズの全裸姿は見えない。

 今まで男と一緒にお風呂など入った事の無い彼女にとって年下の男と風呂に入るのはかなり勇気の居ることだ。


「ギャ……ギャンズ」

「どうしました?」


 そう言うとギャンズはローゼスにズカズカと近づいてくる。

 ローゼスは迫り来るギャンズとその股間に着いたアレの存在に恐怖し、ゾワゾワと悲鳴をあげる。

 ローゼスは怖いのだ。

 未知なるあの存在が。

 女子は見てはいけないあの存在を。

 一国の王女として、また普通の女子として、あんなもの見てしまえば最後、いやらしい女と化してしまう。

 もしまじまじと見てしまえばローズダムの危機に発展するだろう。

 とローゼスは考えている。


「お嬢様?! 大丈夫ですか!?」

「近づかないでくださいまし!」

「えぇ!?」

「いやあのその……別にギャンズの事キライってわけじゃなくて」

「お嬢様、大丈夫ですか? 顔が赤いですよ?」

「あなたよくご主人様の……その……あれを」

「ん? あっもしかして」

「そうよ! そう! ギャンズも少しは」

「温泉に入った後に飲む牛乳の事ですか?」

「そうじゃないわぁ!」


 ギャンズは首を傾げた。

 ローゼスは温泉から上がり、すぐに部屋に戻ろうと思った。


「お嬢様上がるんですか?」


 そう言うとギャンズも温泉から上がってきた。


 そして彼女は、遂に、アレを視界に捉えてしまった。


「ん? お嬢様?」


 その日、シェンシェーの霧深い山々に悲鳴が響き渡ったと言う。


 その悲鳴はまるでおぞましい怪物を見たかのような、悲鳴だったという。

 後にこれは『シェンシェー謎の怪物』と呼ばれ、世界七不思議の1つとされた。




 同時刻。

 シェンシェー城内中庭。

 ここには国専用の闘技場になっている。

 リングは正方形に作られており、周りは砂利で埋められている。

 そして、ナタクは剣客令嬢のサツキ・ジュンと対峙していた。


「さっきの悲鳴はなんだ。お前の手先か?」

「さぁな、私はお主とは戦いたくないが……目の前の障害ならば、倒さなければな」

「私を壁と見るか」


 そう言うと、ナタクは太ももからとある棒を取り出した。

 そしてそれを一振すると、棒は伸びて槍へと変わった。


「面白い武器だな」

神龍槍シェンロン・マオ、シェンシェーで最強の武器だ」


 剣客令嬢対神龍令嬢の戦いが、今始まる。


 To Be Continued

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