第15話 アチャアチャ!拳法の国
ローゼスは馬車で運ばれていた。
砂漠の国デザーツでサバナ・スミカと別れを告げた今、彼女は怪我の治療も兼ねた別の戦いに向かっていた。
ギャンズも馬車の荷台の中で彼女を看病している。
「あとどれ位ですかね」
「あと……2時間ほどですね」
相変わらず顔の布を取らないエルフの使いはそう言った。
「ところで、シェンシェーってどんな国なんですか? 武の国とは……」
「私達の国シェンシェーは、古くから伝わる武術『
「へぇ……五星拳」
「あっ、そろそろ着きますよ」
「着くって……ここは」
ギャンズが馬車の荷台から顔を出すと、そこは霧深い岩山の道だった。
所々から鋭い岩山が霧の中から飛び出し、草木も少しづつ生えている。
所々鷹の鳴き声が聞こえて、ギャンズは頬にあたる空気が冷たく感じた。
「本当にこんな所に住んでるんですか?」
「はい、私達シェンシェーのエルフ族は昔、豊かな森に住んでいたのですが、人間達に住処を奪われてしまい、逃げてきたのがこの土地なんです。五星拳も、本来は人間を倒す為に編み出された物らしいですよ」
「へ、へぇ……」
すると、霧の中から突如建物が現れた。
正確に言うと、建物に着いたのだろう。
「こちらが、シェンシェーの女帝ナタク・タオリン様の御屋敷です」
その建物は荘厳な雰囲気で、まるで仙人でも住んでいるのかと思わせるような年季の入り方をしている。
ローゼスも目を覚ますと、霧深い場所に驚いた。
「……迷子になりましたの?!」
「ローゼス様、お目覚めになりましたか」
「ギャンズ! 早く迷子から抜け出しましょ!」
「ああ、もう着きましたよ」
「ここなんですの?! しぇいしぇい!」
「シェンシェーですお嬢様」
馬車を動かしていた使いの者が降りて、玄関の取っ手の近くにある覗き穴を開ける。
そして何かコソコソと話をすると、2人の元へ戻ってきた。
「入ってよろしいようなので、お入りください」
中に入るとそこは広く柱には龍の装飾が施され、天井にも空を舞う龍の絵が描かれている。
大理石の床は冷たく、その屋敷の荘厳さを強調させ、2人の目の前には玉座とその後ろに描かれた虎と龍の絵。
そして玉座に座っているのは、チャイナドレス姿の黒髪ロングの女性だった。
目つきは鋭く、玉座の大きさと少し階段が作られており、数段上からの視線からか2人を見下しているようだった。
「お前達が……ローズダムの者だな」
「ええ、私ローズダム王女、殺戮令嬢のローゼス・グフタスですわ」
「シェンシェーの女帝ナタク・タオリンだ。
彼女が玉座から立ち上がると、その身長の高さ故の威圧感はまるで怒る竜その物だった。
「何故、私をお呼びに?」
「簡単な話だ、決闘し、私が勝利し世界の覇者となる。それが私の目標だ」
ナタクはその鋭い視線を、ギャンズに向けた。
「時にそこの小僧」
「は、はい」
「最近、小僧の記事を見させて貰った。最近彼女の執事になったらしいな」
「まぁ……はい」
「何故この女につこうと思った」
「……僕を助けてくれた……人なので」
そう答えるギャンズはどことなく恥ずかしそうだった。
それを見たナタクはさらに質問を続ける。
「歳はいくつだ」
「確か……13です」
その数字にローゼスは雰囲気など無しに驚く。
「あなた13でしたの!?」
「あれ? お嬢様に伝えてませんでしたっけ?」
「初耳ですわよ! 10歳とかかと!」
「あぁ〜よく街の人に童顔って言われるんですよね〜」
「私を無視して話を進めるな」
ナタクは質問を続ける。
「時に小僧、お前に想い人は居るのか」
「え、ええ?」
「答えろ」
「……特に居ませんが」
「…………」
「な、なんですか?」
「そうか、質問は以上だ」
ナタクは玉座の前の階段を降りる。
「ローゼス、貴様は今深手を負っている。その怪我を治してから、私と決闘をしろ。その間、部屋をこちらで用意してやる」
「随分と優遇してくれるのね」
「あくまでも王だからな、少しは快く迎えさせてやる。私は部屋に戻る。部屋へ案内させろ」
周りにいた従者達が返事をすると、ローゼス達は従者達に部屋へと案内される。
ナタクは1人別の所へと向かっていた。
地下の階段を降りて行き、竜の紋章が描かれた荘厳な扉につけられた鍵を開ける。
そしてその部屋の中には。
壁に貼られた大量の少年の絵、棚に飾られた本は全て古今東西の少年が主人公の小説やら絵巻物。
ベッドの上にも、その少年を模した人形で埋め尽くされていた。
ナタクはその部屋で新聞のスクラップを手に取った。
そのスクラップには、ジンとの決闘に勝ったギャンズの顔が載っていた。
ナタク・タオリンには秘密があった。
それは。
「遂に来た……合法の少年」
その頃、シェンシェーの国境にはとある王女が国内に入ろうとしていた。
白い着物姿に黒い髪を後ろで束ねている。
腰に携えた刀は黒く光沢のある鞘に収まっている。
だが、シェンシェーは無断で国内に入るのを禁じられている。例え王女であろうとも。
「お前、何者だ」
「剣客令嬢……と言えば問題ないか」
「女帝の許可無しでは入国は出来ん」
「そうか……」
そう言うと、剣客令嬢と名乗った彼女は警備員の横を通り過ぎる。
「おいお前、話を聞いて」
その刹那、警備員は衝撃を受け吐血し、倒れた。
「峰打ちだ、安心しろ」
侍の国『ヤマト』その国の王女、サツキ・ジュン。またの名を剣客令嬢である。
To Be Continued
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