第11話 スパイス

 ローゼスは夢を見ていた。

 幼い自分は、燃え盛る城の中で泣き叫んでいる。

 次々と城に放たれる火の矢は、燃え盛る炎をより大きくしていく。

 怖い、誰か助けて欲しい。

 その時、誰かが自分に手を伸ばしてくれた。

 その手を見ると、なんもなく、安心し、ローゼスは手を伸ばした。



 その瞬間、城の一部が崩れ、その手は……。


 翌日。

 ギャンズとローゼスの2人はデザーツの城の一室で休んでいた。

 デザーツの城はローズダムとほとんど変わらぬ大きさだが、デザインや部屋の作りは全く違った物になっている。

 壁はタイルで絵が描かれ、床も冷たい大理石になっている。

 そして、その部屋のベッドでローゼスは勢いよく目覚めた。

 ローゼスはたまにそんな夢を見てしまう。


 ローゼスは隣で既に起きていたギャンズの用意したパンを食べ終えると、すぐに決闘へ向かおうとした。


「お嬢様、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫よ!」

「……でも」

「何よ」


 ギャンズは少し心配していた。


「なんか、お嬢様。無理している様な気がして」

「なんの事よ?」

「なんか、戦っているのを見てる時、感じるんです。何かをひた隠しにしてるというか……なにかに追われているような。とにかく、なんでお嬢様はそこまでして、世界一の令嬢になりたいんですか?」

「お黙り」


 ギャンズは少し言い過ぎたと思ってしまう。

 ローゼスの言葉は高圧的であったが、どことなく、悲しさや、自分を縛り付けているような、そんな何かを、ギャンズは感じた。


「す、すみません。執事の僕が、そんな詮索しちゃ、駄目ですよね」

「……良いのよ。ありがとう、心配してくれて。この私が、負ける訳ないですもの」


 ローゼスはそう言うと、部屋を出ていった。

 ギャンズは、ただ彼女を見届けるしか無かった。

 

「……というか、お嬢様。決闘は明日ですよ?」


 そう言うと、ローゼスはそそくさと部屋に戻ってきた。


「ギャンズ、街へ食料を買いに行くわよ」

「は、はい」


 ローゼスの顔は赤くなっていた。



 デザーツの街はオアシスを中心に栄えており、市場には人が沢山いた。

 柱を建てて、上に布を張った簡易的なテントに、絨毯の上に並べた商品を叩き売りしている。


「たくさん人が居ますね〜」


 ギャンズは燕尾服の上を脱ぎ、半袖のワイシャツ姿でやってきた。

 ローゼスは流石に他国の王女が突然やってくるとデザーツの国民も驚く為、サングラスに茶色いローブを全身に巻いている。

 ちなみにローブの下は、いつもより薄めのドレス姿である。


「お嬢様、何食べたいんですか?」

「カレー、カレーは無いのかしら」

「カレー……ってあのピリピリしたあれですか?」

「あれ美味いわよ」

「どこにあるんですかね……」


 ギャンズは通りすがりの国民に聞いてみた。


「あの〜すみません」

「お? なんだい兄ちゃん。ここらじゃ見ない顔だね」

「カレーってどこに売ってますか?」

「カレー? ああ、ありゃ作るもんだぜ」

「作る?」

「ああ、ちょうどそこにスパイス屋さんがあるから、そこの店主に聞いてみな」


 国民が指さす方向には小皿に並べられた様々な種類のスパイスとその奥にいる今にも干からびてしまいそうなヨボヨボの爺さんの姿があった。


「あの〜すみませーん」

「……あ? スミイカ?」

「すみませーん。カレーを作りたいんですけど」

「カレイを作る? 魚なんぞ作れるか」

「カレーです」

「ああ、カレンか……わしの娘はやらんと言っとろうがァ!」

「誰の事ですか!? カレーです! カ、レ、ェー!」


 スパイス屋さんの爺さんはやっと理解したのか、スパイスの小皿を一つ手に取り、見せた。


「お主、異国の者じゃろ。これとこれとこれとこれ、後これを混ぜろ。そうすればカレーができあがる」


 その爺さんの目はまっすぐと、ギャンズを見つめていた。


「……いくらですか」

「3500アラバじゃ」

「たかっ」




 その頃、砂漠地帯には令嬢が1人、大きな岩の上に座っていた。

 茶髪のロングヘアに質素な茶色いドレスに、ラバーグローブを両手につけている。

 すると、空から鳩が現れ、令嬢の肩に乗った。


「対象は居ないか」

「イナイッポー!」


 鳩が甲高い声で人の言葉を話す。

 その令嬢は、背中に長い棒状の道具を入れる袋を携えている。


「まぁ良い、今日のご飯でも探すか」

「ポップコーンダポー!」

「もう無いぞ、誰かさんがつまみ食いしたせいでな」

「ガッカリ」


 そう言うと、令嬢は背中に携えた袋からあるものを取り出した。

 それは、銃だ。

 令嬢の身長よりもやや長く、狙撃に適した銃である。


「……風向き良好、目標、5000m」


 令嬢は銃を構え、引き金を引いた。


「命中」

「ヒットォ!」


 令嬢は弾を放った場所へと歩いて行く。

 辿り着くと、そこには、脳天を撃ち抜かれた、巨大なサソリの怪物の死体があった。


「これは食べられるな。チキン、今日はサソリの唐揚げだ」

「ポッポー! カラアゲ! カラアゲ!」


 彼女の名は、キノル・トリプト。狙撃の国『ロビンフン』の王女であり、またの名を『狙撃令嬢』である。


「殺戮令嬢……どこにいる」


 To Be Continued




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