EBR編

第8話 開戦

 ギャンズの決闘から2週間ほど経った。

 ローズダムは今日も平和である。

 ここ最近、ギャンズは街中でも有名人になってきた。

 決闘のおかげでただの執事では無いと言う事と元奴隷である事の2つで知名度が上がったのである。

 いつも料理の買い出しに行っているギャンズだが、ここ最近は歩くだけでも国民に囲まれて握手などを戻られる。

 買い物から帰ってきたギャンズは疲れながらも、ザクロスに食料を渡した。


「ふぅ……買い物するだけでも一苦労ですよザクロスさぁん」

「まぁ、良い事では無いか。私なんか若い頃は逃げられたもんだぞ、何も悪事はしていなかったがな」

「ザクロスさん人相悪いですものnぐっはぁ!」


 ザクロスの恐ろしく早い手刀がギャンズの鳩尾に炸裂した。

 その時、突然城門の前に謎の人物が現れた。

 金髪の白いスーツ姿で、四角い縁のメガネをかけている。

 そして何より、背中に翼が生えていた。

 まるで天使の様に。

 すると、ザクロスは地に伏せ、ギャンズも無理やり地に伏せられた。


「な、なんですかザクロスさん?」

「私語は慎め」


 ザクロスは耳元で言う。

 天使の様な男は堂々と歩き、玉座に座るローゼスの前に立ち止まる。


「ローズダム国王、ローゼス・グフタスだな」

「ええ、わざわざこんな地に降りてきたのね」

「50年に一度の儀式ですので」


 そう言うと、天使の様な男は1輪の薔薇と紙を渡した。


「EBRの開始だ。期間は本日より1年とする。もし1年以内に決まらなければ我々天人が強制的に決める。わかったな」

「ええ」

「ではこれで失礼する」


 そう言うと天使の男は帰って行った。


「……なんだったんですか? お嬢様」

「天人、私達人間より上位に立つ存在……ですわよ」

「それにEBRって……」

「エレガンス・バトル・ロワイヤルの事よ。あら、ご存知無かったかしら」

「すみません、元奴隷なので……」




 説明しよう。

 エレガンス・バトル・ロワイヤル。略してEBR。

 この世界では50年に1度、世界各国の令嬢が戦いあい、最後の一人が、全ての国を統一する者となれる。

 正しく、世界一の令嬢を決める大会である。

 そして、先程天人から渡されたのはその大会に使う道具である。

 1輪の薔薇は、思想薔薇マインド・ローズと呼ばれ、身につけた本人の心理状態を表す。

 心の底から、負けを認めた場合、思想薔薇は枯れ果ててしまう。

 そして手紙にはEBRのルールが書かれていた。

 内容はこうである。


 その1、不可抗力以外で命を奪ってはならない。

 その2、相手とは決闘する場所、時間帯を決める。

 その3、勝敗は思想薔薇が枯れた者が敗者となる。

 その4、戦いは常に優雅に、美しく。

 その5、戦い方は問わない。たとえ姑息な手でもそれは戦い方の一つであり、それもまた美しさの一つ。

 その6、勝者は常に相手への礼をしなければならない。


 以上の6つである。


「……つまり、お嬢様」

「ええ、無論優勝してやりますわ」

「という事は……誰かに決闘の手紙を出すんですか?」

「……待つ!」


 ローゼスは、他国の事はあまり考えてなかった。


「……他国の令嬢知らないんですか?」

「この国、周り山ですもの……関わりが貿易か年に一度の国王会議くらいですわ……」

「そこで交流深めてくださいよ」

「うるさァァァァい! とにかく! 隣国かどっかに直接行ってやりますわよ!」


 ローゼスはやけくそで決闘の手紙を書き始めた。


「全く、お嬢様はいつも突発的なんですから……」


 ギャンズも呆れて、自室へ戻った。

 すると、ギャンズはなにか部屋に違和感を感じた。

 何かが居る。


 人では無い事は確かだ。


 だが、ギャンズは念の為内ポケットからナイフを取り出し、構える。

 ギャンズは恐る恐るベットの下を覗くと。


 

 何もいなかった。


「やっぱり気のせいか」


そうやって顔を上げると、ベットの上に怪物の様な大きさの蜘蛛がいた。

 ギャンズは叫ぼうとしたが、口を糸で止められ、全身を糸で包まれた。


 そして蜘蛛は手紙を床に置くと、ギャンズを気絶させ、どこかへと連れ去ってしまった……。



目を覚ますと、そこは暗い洞窟の中だった。

ギャンズは糸で吊るされている。


「……ここは」


すると、上から何かが動く音がした。


「あらあら、お目覚めの様ねぇ。坊や」


ギャンズが上を見るとそこには白と黒が反転した目を持ち、黒髪のロングの 3メートル程の大きな女がいた。

しかし、普通の女とは違い、下半身が蜘蛛であり、その足で天井に這いつくばっている。

ギャンズは彼女が


「……貴方は」

「私は蠱惑令嬢のタラン・チュリスト。地下にあるこの『セクトリア』の女王よ」


タランは妖艶な笑みを浮かべ、蜘蛛の胴体の穴から糸を出し、そのまま降りてきてギャンズの目の前に来る。


「僕なんかを誘拐して。何をする気ですか!」

「あんたは人質よ。あの殺戮令嬢の嬢ちゃんをおびき寄せるための。決闘の手紙も既に送ってあるわ」




その頃、ローズダムではローゼスがタランの送った決闘の手紙を読んでいた。

手紙の内容はこうだった。


『本日から7日以内にセクトリアへ決闘に来なければ、執事の命は無い』



「……お嬢様、如何なさいますか」


ザクロスが聞くと、ローゼスは手紙を破り捨てた。


「やってやろうじゃありませんの」


To Be Continued

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