殺戮令嬢は鞭を振るう 〜世界一の令嬢になる物語〜

第7話 プライドは無いのかプライドは

　ギャンズは一気に間合いを詰め、レイピアでジンの胸を貫こうとする。

　それをジンは剣で弾く。

　ギャンズは衝撃を逃がす為に体勢を後ろに仰け反らせるものの、足で踏ん張って体勢を整える。

　ジンは反撃といわんばかりに剣を振り下ろし、ギャンズはそれを盾で防ぎ、隙だらけになった脇腹をレイピアで突こうとする。

　しかし、ジンは剣を横に流し、レイピアを止めた。

「なかなかやるな」

　ジンは感心しつつも、剣でレイピアを弾き飛ばし、後ろに引いて間合いを作る。

　ギャンズは盾を前にして再び攻撃の体勢をとる。

　ジンはこの時、少し驚いていた。

　あのか弱そうな細身の少年からあそこまでの戦闘技術があるという事に。

　まるで獣の様な彼の目はジンに向けられている。

　だがジンはそれでこそ、倒しがいがあると思った。

「今度はこちらから行かせてもらうぞ！」

　ジンは間合いを詰め、連続して剣戟を放つ。

　ギャンズは盾で防ぐものの、力強い一撃一撃に、盾は衝撃を受け、盾に傷がつき始める。

「ほらほらどうしたさっきの勢いは！」

　するとギャンズは盾でジンの剣を弾き、レイピアでカウンターを決めようとする。

　だがそれだけでやられるジンでは無かった。

　ジンは弾かれた剣を地面に突き刺し、体のバランスを保ち、そのまま仰け反る様にレイピアを避けた。

　ジンはそのままカウンターのカウンターとして地面に突き刺さった剣を引き抜き、ギャンズの手元からレイピアを弾き飛ばした。

　後ろは薔薇の棘で埋められた壁、ジンは完全にギャンズと追い詰めた。

「お前の負けだ！　ギャンズ・マクベル！！」

　盾だけになったギャンズにトドメを誘うとした。

　その時である。

　ギャンズは盾持ち手についていた引き金を引く。

　その刹那、盾に大量に空いていた謎の穴から、何かが発射されたのだ。

　ジンは驚き、剣で何かを弾く。

　しかしそれは大量の穴から無数に発射され、全てを防ぐ事は困難だった。

　ジンは多少のダメージを受け、そのまま後ろに尻もちを着いてしまう。

　その隙に、ギャンズはレイピアを拾う。

　ジンも焦って剣を構えるが、すでに時遅し。

　彼の喉仏の前には、ギャンズがレイピアを向けていた。

「勝負あり！　勝者、ギャンズ・マクベル！」

　闘技場は一気に歓声に包まれる。

　ギャンズも大きく息を吐き、尻もちをつく。

「ジンさん、お疲れ様でした」

　ギャンズが立ち上がり、手を差し伸べると、それをジンははらった。

「どうかしましたか？」

「……ないのか？」

「え？」

　ジンは立ち上がり、ギャンズの胸ぐらを掴んだ。

「プライドは無いのかプライドは！　そんな盾に武器を仕込むなど！　卑怯にも程がある！」

　ギャンズはジンの怒号に驚き、少し固まるも

　それを鼻で笑った。

　その反応はジンの怒りの日に油を注ぐには十分な事だった。

「貴様っ！」

　帰ろうとするギャンズの肩を掴むと、ギャンズは服を脱いだ。

　ギャンズの上半身が闘技場の観客中に見えた。

　観客達は歓声から一転、ざわめきに変わる。

「……お前」

　ギャンズの背中に押された番号。

　それは、奴隷であった事への証明だった。

　無論、ローズダムでは奴隷の取引は禁止されている。

　しかし、他国では合法にしている所も少なくは無い。

　だが、ローズダムの国民からすればそれは痛々しい物であった。

「奴隷にプライドを、求めないでくださいよ」

　そう耳元で囁くと、ギャンズは笑みを浮かべて、上を着て、闘技場を去った。

　ジンの手から、剣がするりと落ちる。

「……あんな奴に……俺は」

　闘技場に彼の叫び声が響き渡る。

　だが、それは、ざわめきにかき消された。

　その日の夜、城では、ギャンズの決闘勝利記念のお祝いパーティが開かれていた。

「ギャンズ〜！　お祝いですわよ〜！」

　いつもローゼスが座っている長い机の先頭にギャンズは座り、目の前には豪華な薔薇の飾り物と、料理の数々が置いてあった。

　いつもなら横にいるだけのギャンズも今日は食べ放題との事。

「いっ、良いんですか？　こんなに」

「良いのよ！　ほら、冷めないうちに食べちゃいなさい！」

「は、はい……」

「幼なじみの分際で城に入ってきて、結婚だなんて都合良過ぎるのよ」

「おなさっ！？　えぇっ！？」

　ギャンズはつい食べている途中だったスパゲティを喉に詰まらせて咳き込んでしまった。

「あら、そういえば言ってなかったわね。ジンは子供の時よく遊んでたのよ。それで『しょーらいはけっこんしよー！』とか言って。まぁ私にとっては冗談ですわよ」

　ローゼスはそういうと高笑いをする。

「は、はぁ……」

　ギャンズはその日、スパゲティを3杯食った。

　その後。

ローゼスは自室のベランダで夜空で一際目立つ満月を眺めていた。

「……そろそろね」

部屋に戻り、ローゼスはドレッサーの上に置いてある。やや横長の宝石で彩られた箱を開ける。

そこには、黒い花弁の薔薇が1輪置いてあった。

「お母様……私は、絶対に勝ってみせます」

〜出会い編　完～

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〜 EBR編〜

To Be Continued