第2話 3人でデート 4
「おい!誰かいないのか!とっととここから私を出せ!私を誰だと思っている。私はザクレイの領主ギブラだぞ!貴族の私をこんなところに閉じ込めておいていいのか!」
王城の地下深くにある牢獄の中で1人の男が大きな声を出して喚いていた。
自分の領地で悪行を働いていた彼は氷花に捕らえられ、女王に引き渡されてからこの牢獄に捕らえられていた。
通常の犯罪犯ならこの王都で複数ある中で1番大きい軍事基地の牢獄に収監されるが、貴族や王族など、高い権力を持った者は王城の地下にある特別製の牢獄に収監される。
主な理由としては自分が捕まった時の事を考えて、あらかじめ権力と金に物を言わせて強力な傭兵を雇っていたり、看守を買収して脱獄を企む可能性が高いからだ。
この男、ギブラも街の領主だったので、この特別製の牢獄に収監されている。
「ええい!あの女め!奴さえいなければ私はこの国を支配する王になれたはずだったのに!!」
自分の悪事を暴いた氷花への恨み言を物言わぬ牢屋に漏らし続ける。彼の頭の中には自分が悪行を働いたという意識すら無い。
彼は怒りを床に叩きつけようと手錠で繋がれた両手を振り上げた。振り下ろすために力を込めた瞬間、
バシュ!バシュ!
「な、何だ貴様は!がぁ!」
何かが放たれたような音と見回りの兵士の驚愕の声と悲鳴が聞こえてきた。
バシュ!
「おい!誰か応援をーぎゃあ!」
応援を呼ぼうとした声もあっけなく途切れてしまう。
ギブラは恐る恐る顔を格子に近づけ、外を見ようとする。
外に広がっていたのは鎧の胸部分に穴が空き、そこから血が溢れ出した兵士が2名転がっていた。
そして、兵士を殺したであろう男がコツコツとゆったりとした足取りで近づいて来た。
「全く、こうもあっけなく侵入出来るなんて。今も昔も低レベルですね、人間というものは」
「き、貴様は!」
近づいて来た男は紫色のロングコートを羽織り、紫色の大型拳銃を右手に持ち、コートと同じ色の髪をした16、17歳くらいの少年だった。
そう、この少年こそギブラに商談を申し込んだ相手だった。普通ならこんなガキを相手にはしないが内容が内容なだけにギブラは自らが街の外に出向いて交渉に向かった。そこをあの女に襲われた。
「おや、これはこれはお久しぶりですね。ザクレイの領主ギブラ殿。先程から大きな声を出してばかりですが、お元気そうで何よりです」
まるで、上流貴族かと思うほど落ち着いた話し方と言葉遣いだった。さらに、彼の横に広がる惨状と全く合っていない人の良さそうな笑みを浮かべている。
その光景にわずかな恐怖心を抱きながら、精一杯の虚勢を張る。
「ふざけるな!どこが元気だ!こっちは毎日毎日バカな審問官共とくだらん話をさせられていたんだ!とっととここから出せ!」
「ええ、分かっております。あなたをここから出しましょう」
彼は下ろしていた銃をゆったりとした動作で持ち上げる。
これで解放される。
と、ギブラは思った。後はこの男が私を国を統べる王にしてくれる。そうしたら、私の邪魔をしたあの女と、目障りな女王を最大限の屈辱を味わわせてやる。どうやって復讐をしようか。策を巡らせる。
しかし、目の前の少年の次の言葉を聞いて思考が止まった。
「ただし悪魔としてですが」
「な、何を言っている貴様」
ギブラが狼狽の声を出すと、少年は声に呆れを滲ませながら淡々と答える。
「やはり、見た目通りのバカ豚ですね。まさか、あの時の嘘をまた信じているんですか」
先程の紳士的な言葉遣いが変わった。まるで、人を嘲笑うことを生業とする悪魔のように。
「あなたを王にするなんて真っ赤な嘘。むしろあなたみたいなバカはこの世界から消えるべきなんですよ。しかし僕は効率の悪い事が嫌いなんですよ。あなたのようなクズでも使いようはある。バカは使いよう、という言葉はまさにあなたにあるようなものですね」
(何なんだ、この男は)
今までの紳士的な言葉遣いはどこにいったんだ。そして、気付く。先程までの口調はすべて、人を欺き、利用するためのフェイク。
「貴様、私をどうするつもりだ」
「だから、先程も言ったでしょう。あなたを実験のために悪魔にします。せいぜいその汚い命を使って僕の役に立って下さい」
少年が右手の銃をギブラの心臓に向ける。その銃口には鳥が描かれた毒々しい緑色の魔法陣が輝いていた。
「ま、待て、金ならいくらでもやる!だから、見逃が、」
「うるせぇよ、クズ豚が」
あらゆるものを突き放すような冷たい言葉と同時に何の躊躇いもなく引き金を引いた。
「ま、待って待って待って!や、やだーーー!!!」
放たれた魔法陣がギブラの左胸に張り付き、ゴブ、ゴブゴブ、という身の毛もよだつような音を立てながら体が作り替えられていく。
変化は数秒で終わった。目の前には人間だったものが荒い息を吐いていた。そして、
「ギシャーーーーーーーー!!!!!!!」
という、化け物に相応しい甲高く不気味な産声をあげた。
――――――――――――――――――――――――――
「よし、氷花!次はこれを着てみてくれ」
「その次はこれね」
どうも氷花です。
私が今どのような状況にあるかと言いますと。美少女2人の着せ替え人形になっております。
私たち3人は街の中を見て回った。昼間ということもあって人通りが多く様々な人で溢れかえっていた。
だが、王都ということもあって店が立ち並ぶメインストリートはかなりの大きさで、3人で手を繋いでいても他の人の通行を邪魔することはなかった。
店に関しても様々な建物や、移動式の屋台、旅商人が大きな布を敷いて、王都では中々見かけないものを売っていたりして、見ているだけでも十分楽しめた。
いつもは目が合うだけで喧嘩する2人も目を輝かせながら見物を楽しんでいた。
そして、私達は1件の店に寄った。そこはつい最近開店したばかりの2階建ての服屋だった。店の横には今流行りの服を着たマネキンが数体並んでいた。今まで見ることに専念していた2人も新しく出来た服屋が気になったらしく、中に入ることになった。
それから私達は店の中を見ていた。だが、
「あれ?氷花」
「ん、どうしたの?」
リンカが何かに気付いたかのようにこちらを見る。そして、私のつま先から頭のてっぺんまでじっくりと見てくる。
(ちょ、え、何何?!)
「私の勘違いかもしれないけど、いつも同じ服着てない?」
私が軽く動揺していると、リンカも戸惑いながら私に聞いてくる。
「ああ、それは勘違いじゃないよ。服は魔法で洗えば一瞬で乾くから、わざわざ着替える必要が無いんだよ」
あまりに真剣にこちらを見ていたので何事かと身構えていたが、あっさり解決する疑問だったのでほっとする。
だが、リンカは私を信じられないものを見たかのように顔が強張っていた。そして、隣にいたシアにチラリと視線を向ける。シアはさして興味も無さそうに淡々と答える。
「そいつが言っていることは間違いじゃ無いぞ。一緒に暮らしている私ですらパジャマ以外の別の服を見たことがないからな」
リンカがやけに切迫したような表情をこちらに向けてくる。
「ねえ?氷花。別の服を着たいとか思ったりしない?」
「別に思った事は無いよ。服なんて別に目立たなければそれで良いし」
その言葉に嘘は無かった。誰かに見せる訳でもないし、変な服でなければ何でも良い。それに今私が着ている服は、全ての素材が前世でも中々手に入らない貴重な素材で出来ている。その上、魔法的な処置を施しているため、この服自体が武器になっている。そのため、わざわざこの服以外を着るメリットは皆無に等しい。
(まあ、いざとなれば今の服と同じ作り方で別の服を作れば良いだけなんだけど)
正直言って私にファッションの知識が無いため前世とほとんど同じ格好をしている。
「シア」
「何だ、私は今こっちの服を見ているんだ。邪魔をするな。って、おい!引っ張るな!」
リンカがシアの細い腕を掴んでどこかに引っ張っていく。シアは突然の出来事に対抗することも出来ずになすがままに連れていかれる。
それから少しして両手に大量の服を抱え込んだ2人が戻ってきた。
「あ、おかえりー」
「ただいまー」
リンカが楽しそうな声で返事を返してくる。シアを見ると、一見無表情に見えるが、僅かに口元がニヤけていた。
どうやら欲しい服が見つかったようだ。
(でも、全部あれ買うのかな?)
「ねえ、氷花?試着室がどこにあるか分かる?」
リンカの問いかけに対して私は少し思考を巡らせて、先程服を見ていた時に試着室を見かけたことを思い出したので、その方向を指差す。
「試着室ならあっちの方にあったよ」
「そうか、なら行くぞ」
「ほら、氷花も一緒に」
「別に良いけどあんまり気の利いた感想は言えないよ」
「それなら問題無い」
「私達が言う側だもんねー」
「ほえ?」
そんなわけで2人にまんまと誘き出された私は、こうして着せ替え人形になってしまったわけです。
「ど、どう?」
私はシアが選んだ服を着て試着室のカーテンを開ける。もう、何往復したのか忘れてしまうくらい2人が選んだ服を試着している。今回シアが選んだのは今の季節にピッタリな軽い服だった。
「ふむ、なかなか似合ってるな」
シアが自慢げな声を出し、リンカが同意する。
「確かにいつもロングブーツで隠れてる脚が出てるから意外性があって。こうなんて言うか」
そして、2人は声を揃えて言った。
「「なんかエロい!」」
私は急いでカーテンを閉めた。
やっぱり脚を出すのは恥ずかしい。そう。私がこのコーデを恥ずかしがった理由はこの黒いミニスカートだ。ミニスカなので当然布の丈が短く、少し動いただけで下着が見えてしまいそうになる。
別に家でならシアしかいないから問題ないのだが、人前に出るとなると致命的な欠点だった。
確かに私はいつもこれくらいの丈の、黒いズボンを履いているが、下着が見える心配も無いし、何より黒いロングブーツが脚をほとんど隠しているので恥ずかしくは無い。
私は気持ちを切り替え、次の服を着る。さっき見た時、2人共新しい服を持っていなかった。ということはこれが最後になるだろう。
「よし、と」
着替えが終わったのでカーテンを開ける。
「どう?」
「うん。かわいい」
「わあ!やっぱりそっちも最高!」
今回リンカが選んだのは先程のシアの服とは対照的な露出を少なめにした服だった。
「ねえ、今までの服だったら1番どれが良い?」
リンカの質問に対して私は即答した。
「この服」
「な?!」
リンカが勝ち誇った笑みを浮かべ、シアが愕然とした表情になる。
(それにしても、この服なら私も着てみたいかも。値段はどれくらいだろ)
服に付いてあるタグを見て値段を確認する。すると意外と高くなかったので、買うことに決めた。
「ちょっとこの服買ってくるから待ってて」
「あ、ちょっと待って、氷花」
「ん、どうしたの?」
元の服に着替えるために試着室に入ろうとした私をリンカが呼び止める。
「最後にこれも着てみてちょうだい」
そう言われて差し出されたのは黒と白の服一式だった。どうやら私が中に入っている間にどこからか持ってきたらしい。
「これを着れば良いの?」
なんか二人が今日1番の期待の眼差しと笑みを浮かべている。そんな2人を見て、私は裏があることを悟るがリンカに試着室に押し込まれてしまった。
このままでは帰れそうに無いので着ることにした。一般的な服屋なのでそうそう変な服は出てこないはずだ。私は祈るようにして、渡された服を着る。
数分後。その祈りは全く届かなかった。
「ちょっと!これ何!メイド服じゃん!」
そう、リンカに渡されたのは貴族の屋敷で働くメイドが着るメイド服だった。しかも、肩が出ており、スカートの丈も短いという、おまけ付きだった。
「この服でどうやって外に出歩くのさ?!」
「でも、うちのメイド達はいつもその格好で私に付いてきてるよ」
リンカがさも当然のように答える。確かにリンカは女王だから、お忍びで街に来る時は、数人の護衛と側付きのメイドが付いてくるだろう。
「そ、れ、は、リンカのメイドだから違和感が無いだけで、普段着みたいに着ったら目立つの!」
私はリンカの横でこちらをじっと見ていたシアに視線を向ける。
「シアも止めてよね。変だった事に気付いてたでしょ」
「もちろん気付くに決まってるだろ。私はそこの女のように非常識じゃないからな。ただ、」
彼女はあっけからんとした口調で答える。
「いつも固い服ばかり着てる氷花がメイド服を着たらどうなるか見てみたかったから止めなかった」
「はぁぁぁぁぁぁー」
盛大なため息と同時に床に座り込む。つまりはリンカの天然に便乗して、私の恥ずかしがっている姿を見ようと考えていたようだ。悪魔だ。
「ねぇねぇ氷花。1回だけで良いからリンカお嬢様って呼んでみて」
「絶対ヤダ!」
リンカの要望を即座に断る。
「よ、ん、で」
「断る!絶対拒否!」
「別に良いじゃん。減るものなんか何も無いよ」
「減ります!確実に何かが減ります!というか、リンカは女王になる前はお嬢様って呼ばれてたんでしょ。今更、私に呼ばれたってつまらないでしょ」
「氷花に呼ばれるのとはまた違うよ。多分、呼んでくれたら私、天にも舞い上がる気持ちになるよ。シアもシアお嬢様って呼ばれてみたくない?」
「そうだな。どうせなら呼ばれてみたい気持ちもある。ついでにお前の魂がそのまま天に昇ってくれるなら私としては万々歳だ」
「ほらー。シアも呼ばれたがってるよ。ね、1回だけで良いから」
2人が期待の眼差しをこちらに向けてくる。
「はあ、もう。分かったよ。1回だけだからね」
呼ぶまで帰れそうにないと悟った私は渋々、本当に渋々承諾してしまった。自分でも薄々気付いていたが、私は2人のお願いはどうしても聞いてあげたくなってしまう。
私は息を吸い込み、
「リ、リンカお嬢、様。シア、お嬢、様」
一気に答えようとしたが、勢いよりも羞恥心が勝ってしまい、出てきた言葉は盛大に震えていた。
「はーい。あなたのご主人様のリンカお嬢様でーす。よく呼べましたー」
リンカが私の頭を撫でる。すごい楽しそうに、無邪気な笑みを浮かべながら。本当になんでこんなに嬉しそうなんだろう。前に私に女王様って呼ばれるのが嫌だとか言ってたのに。
一方シアはというと
「ヤ、ヤバい。最高すぎてクセになりそう」
何故か鼻を押さえながら、私以上に赤面させていた。私は魔法を使って一瞬で着替えた。
会計を済ませた私は服の入った服を携えながら、入り口の横で待っているはずの2人を探す。
(また喧嘩してないといいけど)
あの2人は会うたびに喧嘩をしている。まあ、どれも微笑ましいものばかりなので、止めることはないけど。
(でも、何故かたまに気が合う時があるんだよね。まあ、そういう時は大抵私が大変な目にあうんだけど。今日のメイド服みたいに)
心の中でため息をつきながら、扉を開け外に出る。
「あれ、シアは?」
入り口の横にいたのはリンカ1人だった。まさかまた喧嘩してシアが怒って帰っちゃったのかな。私はいかにもありそうな状況を想定する。
「シアならお手洗いに行ったよ」
「そっか」
どうやら大丈夫だったらしい。
「……ところでリンカ。今日は私に話したいことがあるから城を出てきたんじゃない?」
私は最初に街で会った時から聞こうと思っていた事を聞く。
「さっすが氷花。全部お見通しだったかー」
リンカは気付いてもらえたことに、少し嬉しそうに笑う。
だが、次の瞬間には笑顔が消え目付きが鋭くなり、声に先程まで無かった威厳が宿る。
「氷花。今日はあなたに先日の事件の調査報告を伝えに来ました」
リンカの女王モードだ。彼女は大事な仕事をする時は私の前でもこの状態になる。
私は魔力で空気の流れを操作して、声が私達以外に聞こえないようにする。恐らくリンカもこれを見越して、この場で話すことにしたのだろう。
「まずファストウルフについてですが。軍の報告によると死体からは特段変わったものは検出されませんでした。森に生息しているファストウルフと全く変わりません」
視線で続きを促す。
「そして、2足歩行の狼。未確認生物についてですが。こちらは中から出てきたという人物の身元が分かりました。男の名前はマルブ。少し前から殺人罪で指名手配されていた人物です」
「殺人罪ね。そいつは魔法が使えたの?」
「いえ、調べたところ。犯行手口は全てナイフで複数回刺したことによる失血死です。これに関しては目撃者もいます」
「つまり、変装系の魔法や攻撃系の魔法は使えないというわけだよね」
「はい。残りの不自然な点は怪我が一切無かった事でしょうか。確か腹部に斬撃を喰らわせたんですよね?」
「うん。今、私が使える技の中で一番強力な[リリーネスアサルト]でトドメを刺したよ」
確かにあの時、[リリーネスアサルト]は奴の息の根を止めたはずだ。それ相応の手応えはあったし、完全に魔力が消滅していた。人も魔族も魔物も、生命活動が停止すれば魔力の反応が消滅する。
「ですが、死体にはその跡すら残ってませんでした」
「ふうん」
死体に関しては軍の基地の死体安置所に侵入して調査済みだ。
「現場に残っていた死体はどれも1部欠損したものばかりでしたから、無傷のあの死体は異様だと医療班も不思議がっていました」
「うん。確かにあれは異様だった」
死体の状態が遺族に見せられないほど傷付いている場合は、黒い大きな袋に入れられる。今回はほとんどの死体が袋に入っていた。
だが、マルブの死体だけは顔に布がかけられていただけだった。なので、探すのが簡単だった。
私がまるで見ていたかのように頷くのでリンカがこちらに訝しげな視線を向けてくる。
「ちょっと待ってください。先程から死体の状態に関して反応薄くないですか?」
ギクッ!
リンカはジト目でこちらを見てくる。やばい誤魔化さないと怒られる。だけど咄嗟に言い訳が思い浮かばない。
「もしかして基地に侵入しました?」
「……………テヘペロ!」
私は笑いをとって誤魔化そうとするが女王モードになったリンカには通用しない。
「全くそんなことしなくても報告ならちゃんとしますし、言ってくれれば私の方でどうにかします!」
「はい、ごめんなさい」
私は素直に謝る。すると、私が反省したと思ったのか声を少し和らげる。
「まあ、今回は聞かなかった私も悪かったので今回は不問にします。次、同じ事をしたらいくら氷花でもそれ相応の罰を与えますからね」
「はい」
(まあ、今回はバレちゃったけど、次バレなければ良いか)
バレない方法を考えていると、私の思考を読んだのか、ニコォォという罪人も思わず自分の悪事を吐いてしまう恐ろしい笑みを浮かべる。
そして、私の耳元に顔を近づけ、一切の感情が籠らない冷たい声で冷たい声で囁く。
「バレなければ良いとか思わないで下さいね」
「はい!かしこまりました!女王陛下!」
反射的に敬礼の姿勢をしていた。そして私は気付いた。リンカはシア以上に怒らせてはいけないと。
恐怖で硬直していると、不意に腕を掴まれて引っ張られる。
「わ!?何々!?」
引っ張られた方向を見ると、先程のリンカと同じようにニコォォと笑みを浮かべているシアがいた。
「こんな街中で何をしていたんだ?しかも防音の結界まで張って。説明………出来か?」
(なんかすごい怒ってるーー!)
(え、私なんか悪いことしたっけ。普通に事件の話してただけだよね!?)
「あれれれ、随分と遅かったね。もしかして大きい方だった」
リンカがからかうような視線を向ける。女王モードを解いて、いつも通りの明るい声に戻っていた。そして、この様子を見ると、どうやら怒りを解いてくれたようだ。
「アホか!トイレが混んでたんだ!全く。少しは言葉を選んだらどうだ」
腕を組みながら不機嫌そうに反論する。そして、こちらに視線を向けて怒鳴る。
「違うからな!!!」
(いや何が?)
理不尽に怒られました。なんか今日、怒られてばかりじゃない。
いや、確かにノックしないで部屋を開けたり、基地の不法侵入はは悪いことだと思っているけど。それ以外はいくら考えても怒られる理由が見つからない。
「それより次どこに行く?」
シアの反論を華麗にスルーしてリンカが私に視線を向ける。
「まただ。この気配は…」
私の魔力探知がこの前の正体不明の魔力反応を感じ取る。その瞬間。
遠くからドガァァァァァァァァンという巨大な破砕音が街中に鳴り響く。
遅れて破砕音の振動が叩き付けられる。私は2人を地面に伏せさせて、盾になるように覆い被さる。
「きゃぁぁ!何?!何なの?!」
リンカは状況が理解できず困惑の悲鳴を上げる。だが、目を開けた瞬間、困惑が絶望になる。
街は悲惨な状態だった。通行人のほとんどが先程の振動で地面に倒れ、建物のガラスは割れ、地面に散乱していた。
だが、その先にはさらに目を疑う光景があった。
私達のいるメインストリートを真っ直ぐ行った先の王城の天井が崩れていた。先程の振動は天井が破壊された時のものだろう。
そして、破壊された天井から翼を持った何かが空に飛び出した。それは鳥人間という言葉が相応しいものだった。緑色の体毛に紫色のまだら模様が薄気味悪さを感じさせる。
「嘘、何で王城から魔物が出てくるの?」
掠れた声でリンカが呟く。だが、その言葉をシアが即座に否定する。
「違う。あれは魔物でも魔族でも無い。この魔力の波長はこの前の奴と同じだ」
「シア!リンカを連れてここから離れて!それと、道は危険だから私の家まで飛んで!」
魔物が出現したことに気付いた通行人が悲鳴を上げながら一斉に逃げ出す。中には人を押しのけて強引に通ろうとする馬車まである。このパニックの中、道を走って逃げるのは危険過ぎる。
「分かった。くれぐれも死ぬなよ。掴まれ!」
私の考えを瞬時に読み取ったシアが
「え、わっ!」
いきなりお姫様抱っこされたリンカが驚きの声を出す。そして、すぐに真剣な表情になり、切実な声で私に言う。
「氷花、みんなを守って!」
「分かってるよ。リンカの
私の言葉を聞いたリンカは安心したような笑みを浮かべる。そして、シアに連れられて空を飛ぶ。
「さて、行きますか」
2人が安全な距離まで離れた事を確認した私は、深呼吸をして叫ぶ。
「
黒い魔力が噴き出し、黒いネックウォーマーが首元に出現。
「さあ、ハッピーエンド、迎えるぜ」
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