第2話 3人でデート 2
(やっばい!デートって言っちゃった。)
あれから少しして、私は自分の失言に気付いて2階の寝室で1人顔を両手で覆って悶えていた。
「ああ!買い物に行こうって誘おうとしたのに何でデートって言っちゃったんだろ!デートって恋人同士がするものでしょ!これじゃ私が氷花の事を好きって言ってるようなものじゃん!」
先程まで氷花と一緒に寝ていた、まだ氷花の体温が残っているベッドで恥ずかしさを誤魔化すようにゴロゴロと転がる。
少しして、服にシワが付いていることに気付いて慌ててベッドから降りる。
私は氷花の事を愛している。恋愛的な感情としてだ。2年前のあの日、私は氷花に恋をした。それは紛れもない事実だ。この想いに気付いて欲しくてこれまで何度もアピールしてきたが氷花は全く気付いてくれない。
だからこそこれはチャンスかもしれない。これまで何度も買い物に行っているが、デートという言葉を使ったことは無かった。これで少しは氷花も意識してくれるかもしれない。
ふと鏡を見るといつもの白いワンピースを着た自分がいた。袖の部分に青いフリルがあり、長さは膝の辺りまである。
とりあえず着替えよう。間違いとはいえデートと言った以上、いつもの服でなんて出かけられない。
「えいやっ!」
気合を入れるためにとりあえず声を出しながらワンピースを脱ぐ。ついでに履いていた白いサンダルも脱ぐ。下着姿になり着替えの入っているクローゼットを開けた瞬間、
ガチャ、
という音と共に入り口の扉が開いた。
現れたのは片付けを終えたばかりの氷花だった。私は突然の出来事に脳がフリーズして体を隠すことさえ忘れて立ち尽くした。
「あ、着替え中だった?」
そう言いながら、さして気にする様子も無くハンガーに掛けてあった黒いロングコートを取り羽織る。
そこでようやくフリーズから回復した。想い人に自分の下着姿を見られた羞恥心で顔が真っ赤になる。だが、氷花はそんな私の様子に気づく事無く、開けっ放しのクローゼットを見て、少し考え一着の服を手に取り、こちらに見せてくる。それは、フリルが至る所に付いた黒いロリータドレスだった。
「これとか似合いそうじゃない」
屈託の無い笑みで勧めてくる。恐らく氷花はただ単に客観的に似合いそうな服を勧めてくれただけなのだろう。だが、今の私にはそんな氷花の気遣いを思いやる余裕が無かった。
「出てけ!!!このばかーー!!!」
「ヤベッ!」
激情のままに氷花に衝撃波を放つ。真正面から魔力で起こした衝撃波を受けた氷花は家の壁を突き破り地面に落ちていった。
「ちょ!うそでしょーー!!」
氷花の叫び声が小さくなっていく。
そして、家に穴が空いたことに気付き、急いで床に落ちていたいつものワンピースを急いで羽織る。
――――――――――――――――――――――――――
(しまったなー)
私は先程の自分の失態を悔やみながらシアの隣を歩いていた。
横目でシアの様子を伺うと、未だに頬を膨らませながら不機嫌そうに歩いていた。ちなみに吹き飛ばされてから一度もこちらを向いてくれない。
私達が歩いているのは町の大通りだ。国のシンボルである純白の王城が目に見える場所にあり、たくさんの店が並んでいる。メインストリートには親子や観光客やど、買い物を楽しむ人がたくさんおり、この前の戦いがなかったかのような賑わいだった。
まあ、あの後誰も通らない夜に、壊れた建物の修理とあちこちに飛び散った血をあらかた拭いたんだけど。
(いや、今はそんなことよりこの状況をどうにかしないと)
2階の寝室から地面に落下した私はすぐに起き上がり、修復魔法[
その他諸々の作業をした後、シアを探すと、準備が終わったのか、玄関のドアに手を掛けていた。先程の事を謝ろうと近付くが、こちらに一瞥もくれずに玄関の扉を開けてすぐさま外に出てしまう。
(あれ、もしかして私、さっきの転落で死んだ?)
もしや、自分が死んだために声が聞こえていないのかと現実逃避じみた事を一瞬考えたが、頭を振りかぶり思考を切り替え、すぐさまシアの後を追いかける。
「ちょっと待ってーー!」
当然無反応だったが。
そして、現在に至る。
(とりあえず謝ろう)
決してこちらを見ようとしないシアに私は意を決して話しかける。
「えーと、シア、さっきはごめんね。入る時はノックするべきだったよね。今度からノックするから」
「ふん!そんなことは別にどうでもいい」
「ほえ?」
驚きのあまり間抜けな声が漏れる。シアの機嫌が目に見えて悪くなる。
(私がノックせずにドアを開けてシアの下着姿を見たから怒ってるんじゃないの?年頃の女の子が着替えを見られたら怒るのは当然のはずだよね?)
この推論が違うとなると私には思い当たる節が無かった。
他に何か原因がないかと必死に頭を回す。いっそ魔法でシアの心の中を見ればいんじゃね、とこの状況を打開できる案が思い付くが、この魔法は敵以外に使いたくない。
転生前に誰振りかまわずこの魔法を使った時に、人の欺瞞に満ちた心の中を見てしまった時は、しばらくの間、人との関わりを避けるためにダンジョン籠りしたものだ。
以前の私に親しい友達が1人しかいなかったのも恐らくこの出来事が原因だろう。決してコミュ障などではない。
(でも、もう少しくらい友達を作っておけば良かったかな。そうしたらもっと人付き合いの経験が出来たのに)
前世の私は戦いのことしか頭になかった。単純に魔法や剣術の鍛錬をするのが好きだったのだ。
(くそう、前世の私め、もっといろんな事を経験しとけよバカ!って、自分に八つ当たりしてもしょうがないか)
心の中でため息をつく。
「あ!」
私は突然ひらめいた。そうか、これだったんだ。
「分かった!私が元男だからだ!」
「は?」
シアが目をパチクリさせる。
「ごめんシア!私、自分が元は男だってことすっかり忘れてた。そうだよね。男に着替えを見られたら怒るよね。本当にごめん!」
両手を合わせて頭を下げる。本当に何で忘れていたんだろう。やっぱり男だった時より女だった時の方が長いからかな。
下げていた頭を上げると、シアがこちらを睥睨していたが、少しして、諦めたかのような表情を浮かべる。そして、自分自身を落ち着かせるような言い方で
「はあ、もういい。私もあそこまで怒ったことについては悪いと思っている。この話はここで終わりにしよう」
「え!許してくれるの?」
驚いた。先程まで目すら合わせてくれなかったのに。
「ああ、今回だけ特別にな」
「わあ、ありがとうシア!!!お詫びにアイスクリーム買ってくるね!!!」
「ちょ、くっつくな!は、は、恥ずかしい」
私は嬉しさのあまりシアの華奢な体に抱き付く。先程の自分の反省なんて忘れていた。
だが、シアは顔を真っ赤にして声を出すが引き剥がそうとはしない。それどころか私の背中に両腕を回してきた。
私達は多くの通行人が通る町の真ん中でしばらく抱き合っていた。だが、誰もその光景に目を止める者はいない。なぜなら、私が[
少しして私が手を解くとシアも名残惜しそうに手を離す。
「じゃ、行ってくるね。そこのベンチで座って待っててね」
アイスクリームの屋台の反対側にある三人くらいが座れそうなベンチを指差し、アイスを買いに行く。
小走りで屋台に向かっている時に「バカ」という小さな声が聞こえた気がするが気のせいだろう。
(でも、シアが怒った理由って結局何だったんだろう?)
考えるがやはり答えは出なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます