第2話 3人でデート 1
「うっ、くく、」
温かな光を感じ、重いまぶたを必死に上げようとする。わずかに声を出しつつ、完全に目を開けることに成功する。
「やばい、めっちゃ眠い」
正体不明の化け物との戦いから2日が経っていた。
化け物を倒した後、中から出てきた男の容体を調べたが既に死んでいた。しかも、遺体の状態から死亡したのは3日ほど前ということが分かった。なぜ化け物の体から出てきたのかをもっと調べたかったが、軍の連中がこちらに向かって来る足音が聞こえたので、一旦その場を離れ、町のいたる所に転がっている死体を回収する部隊が男の死体を回収したことを確認し追跡した。何も知らない彼らは男の死体を他の死体と同じ安置所に入れた。
そして、誰もいないことを確認し、再び死体を調べた。その結果、何者かの魔法により、姿を変えられていた事が分かった。その後も様々な方法を使って調べたがそれ以上の事は分からなかった。そのおかげで、あまり寝る時間が無く、こうして朝起きるのにいつも以上に苦労している訳だ。
起きようとした瞬間、隣から寝息が聞こえてくる。
隣を見ると、布団に潜り込んで幸せそうに寝息を立てているシアがいた。いつもの吊り上がった鋭い目線が眠っている時だけ消え、穏やかなものになる。
(まあ、私はどっちのシアも好きなんだけどね)
「起きて、シア」
起きる様子のないシアの肩を揺らして起こそうとする。だが、様子が一変した。
「めて、」
「ん?」
「やめて、離して!」
いきなり顔を歪め、悲鳴を上げ暴れ出す。いつもの発作だ。
「ちょっとシア!落ち着いて!」
「いやいやいや!助けてお父様!」
シアは子供のように泣き叫び、父を呼ぶ。全身がビクビクと激しく痙攣して布団がベッドから吹き飛ぶ。
「氷花!!!」
自分の名前を呼ばれた瞬間、私はシアを抱きしめていた。彼女の体は恐怖からか、いつもより冷たく、彼女の纏っているネグリジェからは汗の感覚が伝わってくる。
「大丈夫だよシア。私はここにいるから」
私は出来る限りの優しい声でシアをあやす。
「氷、、、花、、、」
シアがうっすらと目を開け、私の名前を呼ぶ。
「うん。ここにいるよ」
辺りを見渡して状況を理解したらしいシアが小さく呟く。
「……私は……またうなされていたのか」
「うん。今日はいつもより少しだけ酷かったかな」
「すまない」
「気にしないで。シアが無事だったなら、それでいいから」
彼女は安心したように一息つき、私の体に腕を回した。さして、そのまましばらく抱き合い続けた。少しずつシアの鼓動がゆっくりになっていく。
「もう、大丈夫だ」
シアが私の体から腕を外した。彼女の顔を見ると、若干目元が赤くなっていたが、それ以外はいつものシアに戻っていた。
「それならよかった。抱きしめていた甲斐があったよ」
私は胸に手を当て目を閉じ息を吐く。彼女の発作はこれが初めてではないが、やはり慣れる事はない。今回は無事に済んだが、あのまま死んでしまうのではないかと、毎回戦っている時よりも緊張が体を襲う。
目を開けてシアを見ると、シアが顔を真っ赤に染めていた。
「どうしたの?」
私はまたシアの体に異変が起こったのではないかと慌ててシアに詰め寄る。だが、シアは私から勢いよく離れ、捲し立てる。
「な、な、何でもない!そんなことよりお腹がすいた。早く朝ごはんを作ってくれ」
その瞬間、シアのお腹からキューという可愛い音が聞こえてきた。赤かったシアの顔がますます赤くなる。私はシアの可愛い姿にフフッという笑みを漏らす。
「オーケー了解。待っててね。すぐに元気の出るご飯作るから」
私は布団から飛び降り、朝食の準備を始めた。朝食といってもパンをトースターで焼き、ハムエッグを作り、サラダを作る。それだけの簡単な作業だった。
(まあ、シアに同じものを作らせると、キッチンが吹っ飛ぶけど)
実際吹っ飛んだし。この前、シアがメイドとして敵地に潜入した時もキッチンから爆発音が何度か聞こえた。
「はい、完成!」
私は
「おお!うまそうだな!」
いつものワンピースに着替えてきたシアが椅子に座る。そして、二人で手を合わせ、
「「いただきまーす」」
食べ始める。
「んんー!おいしー!」
ハムエッグを口に入れたシアが美味しそうな声を上げる。朝はお互いあっさりしたものが食べたいということで、トーストとハムエッグ、彩りがわりにちぎったキャベツといったメニューだ。そこまで手間がかかっていない料理だが、こうして嬉しそうに食べてくれると私まで嬉しくなる。
それから私達は料理を食べ続け、一通り食べ終わったところでシアが私に声をかけてきた。
「ところで氷花」
「ん、どうしたの?」
「今日一緒に買い物に行かないか?ほら、その、気分転換に」
若干しどろもどろになりながら私を誘ってくる。今日は特に予定も無い。最近はザクレイ領主の一件で、働き詰めだったので丁度良いだろう。
それに、最近はシアを一人にする事が多い。今朝の発作がいつもより酷かったのもそれが原因だろう。
「うん、良いよ」
「本当か!!」
テーブルから身を乗り出して、嬉しそうにする。満面の笑みを浮かべる姿に私も自然と笑みが浮かべるのだった。
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