第1話 氷花、登場 3
「くっつくな、この変態が」
私の頭を自らの大きな胸に抱き寄せたリンカをすぐさまシアが引き剥がそうとする。リンカはそんなシアの様子を楽しむように挑発的な笑みを浮かべながら、さらに強く抱き寄せる。その結果、リンカの分厚いドレスの下からも存在感を放っている胸の中にさらに沈む。
ちなみに私もシアも薄い服の上からもたいして形が浮かぶことはない。
「ええー、別にいいじゃん。減るもんじゃ無いし」
「減る!氷花の何かが減る!」
「減るのは君が氷花にしてあげたいことじゃないの?」
「女狐!覚悟!」
シアが怒りの形相でリンカに飛び掛かろうとする。
「はーい、そこまで。もう、ダメでしょこんなところで喧嘩したら」
私はシアの腕を掴み、元の場所に引き戻す。
「氷花!なぜそいつばかり庇う!」
「はいはい、頭撫でてあげるから」
そう言いながらシアの白銀の頭を右手で撫でる。
(うわ、すんごいすべすべ。)
「こんなもの嬉しくなんか、、、」
顔を真っ赤にしたシアが反射的に私の右手を振り払おうとする。
「、、、ない、、、」
だが、抵抗の声も顔の俯きに比例して小さくなる。
「氷花!私も私も!」
すぐさまリンカが黄金の頭を寄せてきた。
「りょーかーい」
「えへへ、」
空いている左手でリンカの頭を撫でると、気持ち良さそうな声を出してはにかむ。
右手には白銀の髪のシア。左手には黄金の髪のリンカ。どちらも綺麗かつ手触りがとんでもなく良いため、撫でる手を止めることが出来ない。
「それにしても女王モードと普通モードで差が激しすぎない?」
2人の頭を撫でながら質問する。
そう、リンカは政務の時は、クールかつ威厳ある態度をとり、女王としての姿を見せている。でも、私の前だと、本来の天真爛漫で甘えん坊な姿を見せている。性格の使い分けは絶妙で国民や騎士はおろか、そば付きのメイドですらこの事は知らない。
「それくらい気を張り詰めてるってことだよ。本当は氷花がいなかったら、あの場にいることすら怖かったんだから」
本人は軽い口調で言っているつもりなのだろう。だが、体に巻き付いている彼女の腕からは微かな震えが伝わってくる。
彼女が性格を変えるようになったのは弱さを見せず、完璧な女王として振る舞うためである。
私は彼女の顔を胸に強く抱き寄せる。
「リンカはよく頑張ってるよ。女王とはいえ君はまだ私と少ししか歳が離れてないんだもん。私だって魔法と剣が無かったらって思うと足が震えるよ」
その言葉に嘘は無かった。私は人前では天真爛漫に振る舞っているが、それはあくまで自分に戦う力があり、誰かと敵対しても自分でどうにかできるからだ。
でも、リンカは違う。彼女は戦闘が全く出来ない。それどころか片手剣を持つことすら一苦労だ。それでも彼女は自分のするべき事をやりきっている。ナイフを1回腹に刺されただけで、死んでしまうかもしれないほど脆いのに。
護衛を付けているとはいえ、暗殺のリスクがないわけでは無い。実際彼女は1度、暗殺者を送り込まれたことがある。あの時は偶然私がいたからどうにかなったが、いなかった時の事を考えると今でも背筋が冷たくなる。ましてや狙われた本人は、私と比べ物にならないほど恐怖を感じただろう。
それでも彼女は自分の意思を貫き通している。国民がより良い暮らしが出来るように。感じている恐怖を胸の内に押さえ込み、彼女が思い描く女王として毅然と振る舞っている。
だからせめて、本当の彼女を知っている私が、彼女の心の拠り所になろうと思った。
それからしばらくして
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう」
そう言って私の体から離れる。
「よし!お茶でも飲もうか」
私はしんみりとしてしまった空気を変えるように自分の手をパン!と叩き提案する。
「じゃあ私が、」
リンカがティーセットのあるキッチンに向かおうとする。
「お茶ならさっき入れておいたよ」
得意げな顔で言う。
え、と言いながらリンカが後ろのリビングの方を見る。そこには、うっすらと湯気の出る紅茶と高級感のあるお菓子が載ったテーブルがあった。
実はみんなと会話している時に魔法で準備していたのだった。リンカは驚きのあまり目を見開く。そして、驚きを隠せない声で呟く。
「さすが、伝説の魔法剣士ネオだね」
「言っとくが今のそいつはネオの記憶はあっても性格は完全に氷花になってるぞ」
氷花がテーブルに座り紅茶を飲みながら答える。
「そう!この可憐で美しい美少女の正体は[裏切りの魔法剣士ネオ]でしたー!イェーイ!」
顔の横でダブルピースをしながら女子力100%の笑顔を見せるのだった。
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