第1話 氷花、登場 2
氷花が目を開けるとそこには巨大な白い扉があった。
氷花が数々の散りばめられた宝石より一際目を引く真ん中の紫色の宝石に触れる。同時に魔力を流し込むと、宝石が光り、扉が左右に割れ、道を開く。氷花とシアは中に入る。
「ようこそ、我が城へ。よく帰ってきてくださいました」
広大な部屋に響く女性の声。氷花達の目の前にいたのは長い金髪に緑色の瞳、そして、上等な布を使い、何種類もの宝石を編み込んだ豪華なドレスを纏っている穏やかな表情の女性だった。
彼女はアリストノア王国の女王、リンカトレア・フォン・エレアートだ。年は20代前半で、整った顔立ちをしている。さらに、細く研ぎ澄まされた瞳と先程の威厳のある声が女王らしさを引き立たせていた。
「たっだいまー!いやー、相変わらずだだっ広い部屋だよね。こんなところに一人とか寂しくない?リンカ?」
「女王陛下と呼びなさいといつも言っているでしょう、氷花。まぁ、あなたは何度言っても治すことはないでしょうし、直属の部下では無いので許すとしましょう。そんなことよりも例の依頼ですが、」
「あ、うん。これね。よっと」
氷花は担いでいた領主を玉座に登るための階段の前に投げる。ドサっという重い音がすると同時に「ブヒッ!」という見た目からお似合いの声を発する。女王は領主を冷徹な目で見下ろす。
「確かに、捕縛を依頼したザグレイの領主です。それでは彼女達が」
女王がシアが担いでいる3人の女達に目を向ける。
「そう、攫われて馬車に詰め込まれていた被害者達。首にそこのクソ男が付けた奴隷刻印があるから証拠になると思うよ」
「っ、まぁ、なんて痛々しい。女性の身体にこんな傷を付けるだなんて」
女王が玉座から降りてきて、彼女達に近寄る(すれ違いざまにさりげなく領主を蹴ることも忘れない)。
女王が毛布に包まった彼女達の顔を持ち上げ、首を見ると、そこには真っ黒い奴隷刻印が白い肌を汚すように付けられていた。
奴隷刻印は数100年前、人間が捕らえた魔族に付けられていたものだ。刻印は主人となる者の血を特殊な墨に混ぜ、対象の身体に紋様を描くことで発動する魔法だ。この刻印を付けられた者は、主人に一切逆らうことが出来なくなり、逆らえば激痛が襲うという外道極まりないものだった。
「状態確認は済んだか?なら、とっととこいつらをどっかに持っていけ。いつまで私に背負わせておくんだ」
女達を背負っていたシアが非難の声を上げる。
「あら、そうですね。医療班!今すぐ来なさい」
女王が声を出すと複数の女性の医者が走ってくる。彼女達はシアから女達を降ろし、1人1人を別の担架に乗せて運んでいく。
重荷を降ろしたシアが両腕をぐるぐると回し、体をほぐす。
「これならあの領主を裁くことが出来そうです。協力ありがとうございました」
優雅な仕草で頭を下げる女王。
「別にあれくらい楽な仕事だよ。」
「何が楽な仕事だ。証拠を掴むために何日も屋敷に潜入して、あのブタが1人になる時を待っていたくせに。あんなところでメイドとして働かされた私の身になってみろ」
シアがジト目で不機嫌そうにつぶやく。
「でも、メイド姿も可愛かったよ。今度また着てよ」
「や!だ!ね!」
キッパリと断られた。
結構似合ってたのに。ちなみに潜入中にシアのメイド姿は何度も写真に撮っている。
いつか着てくれるのを祈るしかないか。
私は儚い願望を胸の内に隠しながら、女王の方を向く。
後ろから「かわいい、、、やった」
というシアの小さな声が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。
「それじゃ私達は帰るから。また何かあったら連絡してよ」
「お待ちください!」
発動をキャンセルすると、魔法陣が無数の光の粒になって空気に溶けるように消えていく。私は近くに寄ってきたリンカを見る。私とシアの身長は約160cmと同じくらいだが、リンカは私達より身長が頭一つ分大きいため僅かに見上げる形になる。
「よろしければわたくしの部屋で休んでいきませんか。報酬の話もしたいですし」
「断る。私達はこれから夕飯なんだ。お前に構っている時間は無い」
答えたのはシアだった。
シアは私の腕を引っ張って、自分で
だが、女王は意味深な笑みを浮かべる。
私の背中を冷や汗が一滴流れる。
「ねぇ、シア。やっぱり休もう。ちょっと疲れた」
「はあ!」
「それでは私の部屋に向かいましょう」
そう言われて私とシアは上の階にある女王の部屋に案内される。女王の部屋というだけあって、大きさもかなりのものだった。女王が部屋の鍵を閉める。
一息つこうと近くのソファに座ろうとした瞬間、
「私の部屋へいらっしゃーい!よく来てくれたわね!ひょーーかーー!!」
先程までの威厳のある声とは正反対の子供のような明るい声を上げながら私の体に正面から思い切り抱きついてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます